2024年のまとめ
スタートからほぼ2年が経った「Eat Takeaway」シリーズ。今年もさまざまな分野から、多彩なビジネスリーダーの皆様にご登場いただきました。それぞれの対話を振り返ると、現代世界のビジネスにおける共通の課題が浮き彫りになります。インタビューやパネルディスカッションで語られた言葉から、私たちが取り組むべき問題や解決へのヒントをまとめてみました。ご協力いただいた皆様には、あらためて感謝いたします。
大胆な協業で成長を加速
世界のビジネス環境が急速に変化し、あらゆる分野や業界で競争が激化しています。新製品の開発を加速させ、新たな顧客層を開拓し、情報発信の基盤を強化する秘策のひとつが他社との協業。単発のキャンペーンから長期的な提携まで、数多くのブランドがユニークなパートナーシップで成功を収めています。
高級磁器人形で知られるリヤドロは、近年もさまざまなコラボレーションを成功させてきました。ブランド創立70周年を記念し、映画シリーズ「スターウォーズ」と手を組んだプロジェクトもその一例。限定発売されたゴールドの「ダース・ベイダー」フィギュアはすぐに売り切れ、若い世代にもリヤドロというブランドの認知を広げました。リヤドロジャパン代表取締役社⻑の周凱樑(コリン・チョウ)氏は、こうした大胆な協業が顧客層の若返りに役立つと考えています。
これからの建築家はクリエイターであるだけでなく、優れた調停者やコミュニケーターでなければならない。
パートナーシップの対象が、企業だけとは限りません。安井建築設計事務所は、サントリーホールや京都競馬場など公共性の高い施設を手掛けてきた日本屈指の設計事務所。佐野吉彦社長いわく、若い世代の建築家たちは以前よりも市民との協働を重視しています。ワークショップやSNSを活用して市井の人々から幅広くアイデアを収集し、プロジェクトへの社会的な支持を獲得するのも建築家の役割。このような姿勢は、建築業界全体の考え方を根本的に変える可能性もあります。これからの建築家はクリエイターであるだけでなく、優れた調停者やコミュニケーターでなければならないのです。
内部から変革する日本企業
日本は再び世界の注目を集めています。コロナ禍の終焉で人々が動き出し、円安傾向も手伝ってインバウンドの観光客が戻ってきました。輸出型の日本企業にとっても円安は追い風となり、株価指数は大幅に上昇しています。中国経済の低迷が続く中、投資家は新たな投資先として日本を選ぶようになりました。ここ30年以上続いている停滞を脱し、日本はかつての隆盛を取り戻すことができるのでしょうか。今後の行方について、明るい見通しが静かに広がっています。
マクロ経済の変化と並行して、日本企業の内部では様々な変化が起こっています。競争力を維持し、優秀な人材を獲得し、長期的な成功への道筋を築くために各社はどんな施策を実行しているのでしょうか。
世界最大級の飲料会社となったアサヒグループホールディングスは、全社的な業績向上のためにDE&Iを推進中。日本では管理職に占める女性の割合がまだ11%に留まっていますが、アサヒビールは2030年までに指導的地位にある女性の比率を40%以上にまで高めようと取り組んでいます。これは世界平均の30%を大きく上回り、米国の42%に匹敵する野心的な目標です。グループのDE&Iを推進する山岸裕美氏(顧問)は、この取り組みがマーケティングの目標に大きく寄与すると断言しました。均質性の高い組織では多様なアイデアが生まれにくく、機会喪失や判断ミスのリスクも高まります。このDE&I重視の原則に基づいて製品ポートフォリオの多様化も進め、低アルコール飲料の開発で「スマートドリンキング(スマドリ)」を多様な消費者に訴求しています。
多くの人が働きたいと思える職場にしなければビジネスの成長も見込めない。
さぬきうどんの「丸亀製麺」やナポリ風のピザ「フランコマンカ」などを展開するトリドールも、従業員重視の姿勢によって日本最大級の外食企業に急成長しました。南雲克明氏(執行役員)いわく、多くの人が働きたいと思える職場にしなければビジネスの成長も見込めません。人事部門とマーケティング部門を統合することで従業員体験と顧客体験を向上させ、社会から共感と応援を得ながら業績を上げていくモデルが成功を収めています。
コロナ禍によって世界のビジネストレンドが変わり、専門分野で勝負してきた日本企業も方針転換を迫られています。厨房機器の老舗として知られるホシザキは、コロナ禍のレストラン休業で受注が激減しました。地平尚子氏(総務部長補佐兼広報課課長)によると、ホシザキはこの期間に農業、漁業、福祉サービスなどの新規分野に参入し、現在は国内売上の約60%が料飲店以外の分野からもたらされるようになっています。また外食産業の人手不足にも対応するため、ロボット工学などの技術で新製品の開発を加速。企業が生き残るには、予想外の消費者ニーズを掘り起こす想像力も欠かせません。
逆境を乗り越える勇気
新しい状況から生まれる課題を克服するには、リスクを受け入れる勇気も必要になります。厳しい競争を勝ち抜くため、限界を押し広げられる型破りな解決策も模索してみましょう。
イントレピッド・スピリッツは、日本、中国、米国で個性的なポートフォリオを展開する酒類メーカーです。代表銘柄「コカレロ」は、現在の日本でもっとも売れているリキュール。創設者のジョン・ラルフ氏(CEO)は、既存の販売ルートをほとんど頼らずに市場参入しました。京都、大阪、神戸の小さなバーに入り浸り、DJや音楽プロデューサーとの関係を構築。音楽関係者の間で「コカレロ」が話題になり、需要も十分に高まった状態で東京にも進出しました。ニッチな機会へのチャレンジは、まさしくイントレピッド(ラテン語で「大胆不敵」)の精神を表しています。
代表銘柄「コカレロ」は、既存の販売ルートをほとんど頼らずに市場参入した。
市場調査の結果ではなく、みずからの直感に従って行動するのも勇気ある選択です。化粧品ブランドのジュリークは、南オーストラリアのアデレードヒルズから独自のストーリーを力強く伝えています。ロイック・レトレ氏(CEO)いわく、ブランドの目標は本物のナチュラル志向を極めること。化粧品に含まれるすべての有効成分と植物をバイオダイナミック農法から生み出す製品開発は真にユニークです。先住民コミュニティと提携して土地伝来の植物を栽培し、健全な生態系を維持しながらブランドを成長させてきました。自然派化粧品がもてはやされる中で、次々に登場する競合ブランドとの差別化は不可欠。明確なストーリーを堂々と語り、率先して行動を起こさなければなりません。
揺るぎない価値観で意思決定
企業の存在意義やブランド価値は、3つの行動によって訴求できます。まずは他社より秀でている優位点を明らかにすること。そして消費者に提供できる価値を表明すること。さらには世界にもたらす変化を宣言すること。自社の立場をはっきり意識することで競合を抜け出し、株主、従業員、パートナー、顧客、地域社会などの利害関係者に有益な影響をもたらすことができます。
香港鉄路有限公司は、地下鉄「香港MTR」の設計、建設、運営に携わる重要な責務を負っています。ギル・メラー氏(法務ガバナンス部長)は、あらゆる資本の配分を決める際に「都市の交通を維持する」という根本的な企業目標を見つめ直します。香港鉄路の役割は何か。なぜ香港鉄路は存在するのか。そのような不断の問いかけが、従業員のサポートと公共サービスの継続を可能にします。
香港鉄路の事業は、ギル氏が策定に関わった新しいESG(環境、社会、ガバナンス)の枠組みと強固に結びついています。さまざまな事業分野において優先順位を峻別するため、戦略的な年次KPIがESGの評価基準によって明確化されます。たとえば港の清掃は大切な社会活動ですが、香港鉄路との関連度が低いので優先事項にはなりません。その代わりに地下鉄で使用する二酸化炭素排出量を削減し、運動ブレーキなどの最先端技術でエネルギー生成と効率性を高める目標に大きく投資するべきなのです。
香港鉄路の役割は何か。なぜ香港鉄路は存在するのか。そのような不断の問いかけが、従業員のサポートと公共サービスの継続を可能にする。
サントリーは、ウイスキーや清涼飲料水などの有名ブランドをグローバルに展開しています。時代を映したキャンペーンで知られる宣伝部は、19世紀末の創業時から受け継がれる基本方針を重視してきました。水口洋二氏(チーフデザインオフィサー)も、サントリーの伝統である人間中心主義をクリエイティブの根幹に位置づけています。自社製品と消費者の感情的な共鳴を目指したコミュニケーションは、「人を見つめる」というブレない視点から生まれています。
老舗ブランドでありながら率先して新しさを求め、二者択一ではない第三の道を模索し、議論を深めることで革新的なビジネスモデルや製品が実現できます。水口氏いわく、二律背反にも思える革新と継承を両立し続けるのがサントリーの宿命です。
今年もさまざまなヒントを与えてくれた「Eat Takeaway」の内容は、Eat Creative公式サイトの「Insights」からご覧いただけます。各記事の末尾にまとめられた3つのTakeawayをビジネスに役立ててください。
今年もご愛読ありがとうございました。新しい年も、各界のビジネスリーダーたちと一緒に学びを深めていきましょう。
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