Eat Takeaway Live –
日本の新しい夜明け
在日英国商工会議所(BCCJ)とEat Creativeが、2024年11月20日にパネルディスカッションEat Takeawayを共催。異なる業界から4人のビジネスリーダーを招き、日本経済の課題と展望について討論しました。パネリストの発言から得られた価値ある気づきを共有します。
パネリスト
- 地平 尚子(ホシザキ株式会社 総務部長補佐兼広報課課長)
- クリーゲルシュタイナー 光太郎(いすゞ自動車株式会社 経営業務部門VP兼コーポレートブランディング責任者)
- 水口 洋二 (サントリーホールディングス株式会社 コミュニケーション本部フェローチーフデザインオフィサー)
- 岩﨑 有里子(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社 ヘッドオブコミュニケーション)
変わりゆく世界と消費者ニーズ
増加する自然災害や感染症の流行などもあって、世界中で人々のライフスタイルが変化してきました。不確定なトレンドの動向を読むことで、新しい製品分野や顧客層を開拓する行動力が企業に求められています。京都議定書の採択から27年が経ち、環境負荷低減に向けた規制とも足並みを揃えなければなりません。そのような変化に対して、日本の企業はどのような対応を迫られているのでしょうか。
サントリーは90年代からのウイスキー不況に対応して、清涼飲料水の新事業を強化してきました。生活者のライフスタイルや嗜好の変化に対応し、市場シェア1位の清涼飲料水部門が会社の業績を牽引するまでになりました。日用品である清涼飲料水と、嗜好性商品であるウイスキーは、マーケティングの時間感覚も大きく違います。日用品はアジャイルに回しながら、売れないウイスキーにも投資を継続。今ではウイスキーが、再び入手困難になるほどの人気を獲得しています。消費者の嗜好は30年周期で大きく変わるため、先を読んで長期的な計画を遂行しなければなりません。(水口洋二さん談)
コロナ禍の中で、リモートワークなどの新しいライフスタイルも広がりました。巣篭もり生活が続く中で、自宅での過ごし方や家族との団らんを消費者が見直すようになっています。特に若い生活者はプレミアムな商品を求めるようになり、コロナ禍が収束した現在も同様の傾向が続いているようです。ネガティブに見える変化にも、隠れた時代の気分を読み取ってチャンスを見出す視点が大切です。(岩﨑有里子さん談)
コロナ禍以降も飲食店を苦しめてきた不況の波は、厨房機器メーカーであるホシザキに新たな市場開拓のチャレンジとチャンスをもたらしました。従来の主要な顧客だけでなく、医療や福祉、農業および漁業、コンビニエンスストアなどに販路を広げた結果、国内売上の6割を飲食業以外の顧客が占めるようになっています。飲食店の人手不足に対しては、ロボットアームで厨房をサポートする新製品も開発中。常に想像力を働かせ、今までは想定していなかった業界のニーズを掘り起こす作業がますます必要になっています。(地平尚子さん談)
環境負荷を低減するため、世界の自動車業界では規制強化が進んでいます。ディーゼルエンジンからEVへのシフトは、おそらく100年に一度の大変化。バッテリー式EVトラックの分野では、遠隔地での充電技術などの新しい技術開発が急ピッチで進んでいます。流通業界のドライバー不足に対しても、普通免許で運転できるトラックを開発するという解決策を打ち出しました。欧州では2025年からディーゼルエンジン車の販売ができなくなります。環境や働き方に関する規制も念頭に、6〜7年ほど先を見通した製品開発が進められています。(クリーゲルシュタイナー光太郎さん談)
新しいパートナーシップによる課題解決
ビジネスの課題が複雑化する中で、ベストな解決策を探るには業界の垣根を超えたパートナーシップが必要になります。パネリストの4人も、それぞれ前例のない画期的なパートナーシップによって難しい課題の解決に挑んでいます。
ペットボトルの水平リサクルを進めるサントリーでは、地方自治体とのコラボラーションが始まっています。企業や教育機関とのパートナーシップだけではなく生活者が住む地域とのパートナーシップによって、企業の活動範囲を越えた問題解決に取り組むことができます。(水口洋二さん談)
いすゞ自動車は、商用車の垣根を超えたライバル企業とのパートナシップを加速。カーボンニュートラルの実現に向け、従来にはなかった大胆な仕組みの変革に着手しています。また、業界を超え、若い世代のスタートアップとのパートナーシップも始まりました。そのようなパートナーシップは、新しいリーダーシップのあり方も定義することになるでしょう。(クリーゲルシュタイナー光太郎さん談)
ホシザキもAIロボテックのスタートアップ企業と提携し、まだユーザーも気がついていない新しいニーズを掘り起こそうとしています。社会を変えるには、影響力のある大企業の行動が不可欠。でも斬新なアイデアを生み出すのは、小さなスタートアップ企業だったりします。新しい形のパートナーシップが製品やサービスの品質を向上し、日本経済を活性化することになるでしょう。(地平尚子さん談)
企業間のパートナーシップはもちろん、教育機関、国連などとの協業はユニリーバの企業文化でもあります。消費者のニーズに応えた製品を開発するには、今までの研究開発の枠を超えた新たな協業が必要。従来にない発想で、IoT、AI、バイオ研究などを駆使した技術への理解が求められます。(岩﨑有里子さん談)
サステナビリティと経済合理性の両立
人類共通の目標として、国連で合意された持続可能な開発目標(SDGs)。コストも時間も手間と金がかかるサステナビリティには、一部で忌避感や疑念も広がっています。自然環境や人間社会のサステナビリティは、ビジネスの長期的な成長にも寄与するでのしょうか。
ユニリーバでは、2010年からサステナビリティが事業戦略に組み込まれています。サステナビリティはビジネスの業績に不可欠で、企業として当然の社会的責任。サプライヤー、パッケージ、流通などを巻き込んでトータルなネットゼロを目指し、顧客を巻き込んで取り組みを進めています。多様性の受容と自己肯定感の向上をテーマにしたワークショップは、世界で延べ200万人を動員しました。採用時の出願書でファーストネームを記載しない方針も採用し、性別のバイアスを排除した優秀な社員獲得の求心力となっています。(岩﨑有里子さん談)
サントリーは、創業当初から社会貢献を当然の責務と考えています。養老院や診療所での無料診療などを支援してきましたが、慈善活動の内容は創業者の意向で公表されてきませんでした。現在も水源地を守るために50年から100年の長期契約を結び、森林保全と取水涵養に努めています。広報活動やパッケージ刷新のように、すぐ生活者の目に見える活動ではありません。それでも環境保護や社会貢献は企業としての社会的責務であり、事業の存続を支える取り組みです。(水口洋二さん談)
近年の自動車業界では、値段が多少高くても、多少不便であっても、企業の取り組みに共感してサステナブルな商品を選ぶ傾向が見られるようになってます。米国では、アマゾンで買った商品の配送にEVトラックを選択できるようになりました。社会を変えたいなら、流通の手段は無視できません。日本でも、将来への投資としてEVトラックを購入する人も増えています。消費者の意識が変わることで、この傾向は強まっていくはずです。(クリーゲルシュタイナー光太郎さん談)
ホシザキも自社製品を通してサステナビリティを推進しています。新しい規制にはきめ細かく対応し、環境負荷を軽減する製品開発の力を磨いてきました。このようなイノベーションは、やがて企業の独自性となって市場での競争力を高めてくれるでしょう。(地平尚子さん談)
最後に、サステナビリティは企業の宿題なのかという点に触れます。自然環境や人間社会のサステナビリティは、企業としての責務、つまり宿題なのでしょうか。カーボンニュートラルやジェンダーギャップ問題には数値目標と期限が掲げられ、追いついていかなければ事業成長どころか投資家から相手にされなくなります。
サステナブルは必須でビジネスチャンスと言われるが、「責任」という定義ではなく「豊かさ」という考え方。その旗を振るのが企業です。人の暮らしには、文化的な豊かさも必要だと考えるからです。サステナブルが、環境の話になると数字的、義務っぽくなって辛くなる。メッセージの出し方がまずいのではないでしょうか。そこに文化的、楽しい、面白いがないと、結果的にサステナブルではなくなります。(水口洋二さん談)
数字を求める効率化だけでは、喜びやアートが無い。余裕もお金も生み出せません。(クリーゲルシュタイナー光太郎さん談)
グローバルな価値観を世界中の人々と共有しながら、ローカルな課題を解決する能力があらゆる企業に求められています。多様な視点で未来を見通し、ビジネスの拡大に乗り出す日本企業をこれからも応援していきます。
パネリストのみなさまには貴重なお時間、ご意見をいただき、ありがとうございました。
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