ブランドを進化させるコラボ

周凱樑(コリン・チョウ)リヤドロジャパン株式会社 代表取締役社⻑

2024. 01. 24

ロバート・コステロ / 事業成長責任者

「Eat Takeaway」は、世界で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーに直近の抱負と課題を教えてもらうシリーズ。インタビューから得られた学びを「Takeaway」として読者のみなさまにお持ち帰りいただきます。

新年のスタートを飾るのは、リヤドロの日本法人を率いる周凱樑(コリン・チョウ)氏。美しい磁器の置物で知られるリヤドロは、昨年に創業70周年を迎えました。ブランドの歴史、各国市場の違い、顧客層を広げる提携やコラボの試みについてお話をうかがいます。

(インタビュー:ロバート・コステロ/Eat Creative事業成長責任者)

リヤドロといえば、フィギュリン(磁器人形)が有名ですね。ブランドの歴史や日本での事業について教えてください。

リヤドロは1953年にスペインのバレンシアで設立され、現在も創業地に本社を構えています。小さなアトリエから始まった事業は、本格的な工場生産に成長しました。当初は英国のビクトリア朝時代をイメージしたフィギュリンが中心でしたが、この70年で大きな変化もありました。現在は3つの主要分野で事業を展開しています。

その3つの主要分野は、まず1つめが日本でもおなじみの伝統的なフィギュリンです。そして2つめは、新しいコンセプトのフィギュリン。さまざまな文化からの影響を盛り込み、新鮮なデザインやトレンドを取り入れた製品です。最近ではタトゥーや日本の折り紙をテーマにしたコレクションも発表しました。さらに3つめの分野は照明器具。シャンデリア、ウォールランプ、テーブルランプ、フロアランプなど、さまざまな照明器具を磁気でデザインしています。

リヤドロジャパンは、スペインにあるリヤドロ本社の100%子会社です。約40年前の1980年代から、日本市場で活動してきました。日本市場におけるブランドの潜在力を見極め、消費者の動向を調査し、販売戦略を練ることで事業を成長させています。

日本市場におけるブランドの潜在力を見極め、消費者の動向を調査し、販売戦略を練ることで事業を成長させています。

リヤドロジャパンでは、どんなお仕事をされていますか?

リヤドロの製品は、現在もすべてバレンシア工場で製造されています。リヤドロジャパンの社員は、現在70人ほど。事業の約8割を小売販売が占めるので、、全国の主要デパートを軸にして販路を拡大してきました。大都市の百貨店だけでなく、地方の百貨店にも商品を卸しています。しかし近年は地方での過疎化が進み、人口減による百貨店の衰退が課題となってきました。照明会社やインテリアショップなどの個人商店とも提携し、オンライン事業も展開しています。

私の役割は、日々の実務に直結しています。入社した4年前はコロナ禍の最中だったこともあり、厳しい状況の中で生き残りを図っていました。当時は「この状況を乗り切る方法は?」「スタッフに給料を払い続けるにはどうする?」「店舗の営業をどうやって維持する?」と頭を悩ませる日々。そんな問題も今ではすっかり克服できましたが、取り組むべき課題はまだたくさんあります。日本では観光業が復調していますが、消費の動向は変わりました。海外からの観光客は以前ほど高額な買い物をしなくなり、日本人の消費者にも嗜好の変化が現れています。コロナ禍の時期は自宅で過ごす時間が長くなり、人々がインテリア装飾に大きな関心を寄せました。でも現在は、自宅環境より海外旅行や新しい体験にお金を使うようになっています。このような消費パターンの変化に対応するため、方策を練る時間が増えてきました。

海外からの観光客は以前ほど高額な買い物をしなくなり、日本人の消費者にも嗜好の変化が現れています。

スペインのブランドであることは、日本でどのように受け止められていますか?

日本のみなさんは、よく旅行をされます。バレンシアに行った人もいれば、リヤドロの美術館や工場を見学された人も少なくありません。すべての製品をバレンシアで製造している点は、他のブランドにないリヤドロの強み。もちろん日本のお客さまは見識が高いので、品質の良さを納得してもらう努力も欠かせません。その点では、色彩も重要です。地中海沿岸のイメージを喚起する配色には、アジアや日本ではなかなか見かけない暖色系の色彩もたっぷり。お客さまが自宅やオフィスに飾りたくなるような、美しく特別感のある作品を製造します。リヤドロにはユニークな個性があるので、特に競合は意識していません。

リヤドロの製品やブランドは、日本や世界でどのように進化していますか?

主力商品のカタログは頻繁に更新しており、春夏と秋冬のコレクションを軸に展開するファッションブランドのようなサイクルです。フレッシュな感覚の製品を提案し続けるには、不断の努力も欠かせません。製品カタログは他国の市場と共通の製品も多いのですが、日本に特化した製品もあります。たとえば3月3日まで日本全国の百貨店で販売される雛人形もその一例です。

他のブランドやクリエーターとのコラボは、リヤドロの進化に役立っていますか?

リヤドロは常に自己変革を続けながら、新規顧客を開拓していく必要を自覚しています。お客さまの多くは40代以上で、特に多いのが50代と60代に。リヤドロの製品は決して安価ではないため、ある程度の金銭的な余裕と審美眼も必要になります。忙しく働いている20代とは異なり、安定した人生を送っている層がターゲット。子供の教育も一段落して、だんだん心配事も減ってくる年頃です。それでもやはり客層を若返らせる努力は常に必要。お金を使える若い消費者層がいるのなら、まずはリヤドロを知ってもらいたい。そこで力になるのが、他ブランドとの協働なのです。

たとえば、スター・ウォーズとコラボした一連のフィギュリンは大成功を収めました。創業70周年記念で限定生産した金色のダース・ベイダーは、発売と同時に完売。若い消費者層にリヤドロを知ってもらうきっかけになっています。

リヤドロはアート界とも連携を深めています。プロダクトデザイナーはもちろん、さまざまなタイプのデザイナーたちとユニークな作品を開発してきました。そのひとつが、日本人デザイナーの深澤直人さんと一緒に手掛けた照明「モクレン」のシリーズ。世界最大規模の美術品見本市「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」では、スペイン人アーティストのハビエル・カジェハさんとのコラボレーションで作品を展示します。これは完全にユニークなアプローチで、リヤドロにとっても新たな挑戦。独自の装飾が施された25点の全作品に、アーティストの直筆サインが入っています。

リヤドロはこれまでの常識を塗り替えるコラボを続けています。デザイン、色彩、マーケティングに斬新なアプローチを加えながら、今よりも幅広い層にアピールするのが目標です。

リヤドロは常に自己変革を続けながら、新規顧客を開拓していく必要を自覚しています。

今後のリヤドロは、どんな方向に進んでいきますか?

定番のフィギュリン、新感覚のアプローチ、照明器具という3つの主力分野で、引き続きブランドのポジションを強化していきます。製品の販売だけでなく、より良い製品を提供するための業務改革や、需要増に応じた生産力の管理にも注力します。アート界とのつながりもさらに進めていく予定。さまざまなコラボが始まったばかりです。アーティストたちとの新たな協働関係が発展すれば、ブランドの魅力を新しい世代に幅広く届けられるようになるでしょう。

2024年の目標は?

リヤドロは2023年に創業70周年を迎え、ブランドのエンゲージメント強化に取り組んできました。今年は節目の年ではありませんが、引き続き新たなパートナーシップやコラボレーションなどで成功を目指しています。最終的には、2023年の成功を継続できたら成功だと思っています。

Eat Take-Away

  1. 市場を知る。

    これから日本市場に参入するブランドにとって、絶対に欠かせない最初のステップは市場分析。本国や他国での実績が、日本でも再現できるとは限りません。歴史、文化、社会、経済に独自の特徴を持つ日本は、あらゆる面で他国市場と異なります。たとえ日本に製品を輸出するだけでも、ターゲット層、競合他社、販路、マクロ経済状況などの調査は必須。そして参入してからも忍耐の日々は続きます。初年度から成果を上げようと焦らず、ある程度の失望を覚悟してください。

  2. 変わり続ける。

    一部の老舗ブランドには、変化や刷新を厭う傾向もあります。伝統に根ざした不変のストーリーが、かえって時代に取り残されて消費者に見放される原因にもなります。ブランドは柔軟に進化し続ける存在であり、立ち止まってはいけません。近年の世界状況は国内外の市場に影響を及ぼし、消費者の動向を劇的に変化させてきました。事業が好調の時は、そこに長く安住しようと考えないこと。常に次の進出先を考え、どんな変化にも適応できる準備をしておきましょう。

  3. 仲間を選ぶ。

    異業種との協働は、新たな顧客層を取り込むチャンスの宝庫。ここ10年ほどは、さまざまな業界でブランド同士のコラボが盛んになっています。他社ブランド、デザイナー、アーティスト、ミュージシャンと手を組む時は、ブランドがどんな人々に露出されるのか吟味しなければなりません。既存の顧客であれ、未来の顧客であれ、消費者を混乱させるようなコラボは両者にとって失敗です。ブランドの本質を見極めることで、進出すべき業界や製品を特定できるようになります。戸惑いではなく、ワクワクをもたらしてくれるパートナーを見つけましょう。