この記事は2002年8月に公開されたものです。

STREAM OF UNCONSCIOUSNESS

バッカス神が人間にそんなことを望んだのかどうかはわからない。だが、酒の早飲みにはどこか酒好きの心を惹きつけて止まない何かがあるようだ。

きつい酒を一気に飲む。この抗い難い魅力にはまっている人は少なくない。そんな彼らと工業用アルコールを抱え込み、公園のマイベンチで大声でわめき散らしている不潔なアル中たちのあいだにあるのは微妙な境界線だ。ほかに適当な言葉がないので、ここではそのボーダーを「洗練」と呼ぶことにしよう。

14歳の子供にとってグデングデンに酔っぱらう手っ取り早い方法は、親のキャビネットからくすねた安物のスコッチを5分で空けて、救急車の到着を待つこと。ただし、もっと短時間で酩酊状態に陥り、かつそのプロセスも楽しみたければ、スコッチより強烈な酒などいくらでもあるわけで、このやり方は我らが目指す洗練とはかけ離れている。映画俳優を気取ってカクテルを飲みながら、くだを巻くただの飲んだくれに成り下がるなんて簡単なこと。効き目ばっちりのカクテルのなかでも、文句なしの王様といえばなにはともあれ「テキーラ・スラマー」だ。

ところがスラマーよりもすごいやつがある。火山の噴火のように猛烈な勢いで噴き出るビールに思わず目が釘づけになる、その名もずばり「ショットガン」だ。ショットガンを試した人が口を揃えて言うように、この名前はだてについているわけじゃない。完璧なショットガンの手順はといえば……。まず、ごく普通の缶ビールを1つ用意し、これをマラカスのようにシャカシャカと振る。次に、スイスアーミーナイフなんかに付いているキリで缶の下の方に小さい穴をあけ、指で素早く押さえる。上部のリングプルが手前を向くように缶を持ち、口をアーンと開けたままプルを引き起こしたら、穴から指を放す。思いのほか手際を要するので、一度に何缶も用意できるものじゃないが、その結果は？　噴き出るビールが喉の奥を直撃し、どんなに必死に飲み込もうとしてもビールは服を流れ落ち、あのムッとするビール臭の原因になるわけだ。

ショットガンの素晴らしさ。それはアル中の夢をかなえてくれるだけでなく、物理的現象による奇跡にもある。いったいどういう仕掛けなのだろう。缶を振って内部の圧力が増したところでリングプルを起こして缶を開ける。穴から指を放すと、中の液体はいちばん抵抗の少ないところへ向かおうとする。そしてビールが通過したところは真空状態になり、ビールが押し出されるにつれてどんどん空気が取り込まれていく。そして缶のなかに空気が戻る頃には、胃袋もビールで満たされているというわけだ。“自然は真空を嫌う”とアリストテレスは言うけれど、真空があるからこそ、こんなバカバカしい飲み方もできるわけだ。ショットガンよ、君は本当に素晴らしい。 

人生は短い…だからどんどん飲まないと

テキーラ・シャンパン・スラマー

荒々しいテキーラとお上品なシャンパンがぶつかって、シュワッと泡立ったところを一気に飲み干す。飲んだら当然あっけなくダウンする。テキーラを入れたショットグラスに15mlのシャンパン（お金のない人は代わりに「セブンアップ」）を加え、コースターでふたをしてぐるぐる回し、カウンターにバンと叩きつける。

ワンカップ酒

酒なしではいられない人や時代から取り残されているような人の最後の切り札。このリングプル式広口ビン、ちまたにある自動販売機でいつでも手軽に買えるというだけでスピード・ドリンクの仲間に入ったようなもの。工業用アルコールと紙一重のこの酒は、近くの金物屋の塗料棚に置かれている可能性だってありそうだ。上モノを選ぶように。

ジュース・バー

二日酔いのビタミン補給に。駅の売店にあるジュース・バーは、前夜の犠牲者たちのたまり場だ。バナナやマンゴーはビタミンC、Eが同時に摂れて体力回復には役立つ。ただし、あまり酸味の強いジュースを飲むとよけい調子が悪くなるので避けるように。

青汁

健康おたくたちが信じている「まずいものほど体に良い」という奇妙な格言をそのまま地で行っているのが、ケールを絞った「青汁」だ。二日酔いの苦痛を和らげるには打ってつけ。ただし後味を消すためのチューインガムをお忘れなく。

リゲイン

育毛剤の名前にしてもよさそうな、人気の高い栄養ドリンクのひとつ。これ1本でビタミンB、ニコチン酸、カフェイン、その他よくわからないものがいろいろ補給できて、疲労回復に効く。味については、育毛剤のほうがまだましと言う人もいるかもしれない。

ミルク・バー

ジュース・バー同様、忙しい通勤客に人気の飲み物が、駅のカウンターで早飲みするビン入り牛乳＆コーヒー牛乳。オバチャンが紙のふたを器用に外してくれた牛乳をその場で飲んで、空きビンを返すのがお約束。これを守らないと叱られる。二日酔い後に牛乳を飲むと、下痢や吐き気を催すこともあるので要注意。

文／ナイジェル・ケンダル　撮影／スティーブ・ウェスト