日本進出を成功に導くための5つの秘訣

2023. 03. 28

中條あや子 / Eat Creative共同創業者

日本にもようやく復調の兆しが現れています。行動制限が続いた3年間のコロナ禍を乗り越え、マスクの着用義務や出入国規制の緩和が進んでいます。急激な円安も一段落し、桜開花に楽観的な気分を感じる季節です。

グローバル企業による日本初進出や再進出も始まっています。中国のEV大手「BYD」、イギリスのコーヒーチェーン「コスタコーヒー」、韓国の新興コスメブランド「LAKA」、さらには観光客数の増加を見込んだグローバルなホテルブランドも続々と名乗りを上げています。

日本で成功を収めた海外ブランドとしては、イケア、ザラ、ポール・スミス、スターバックス、ハーレーダビッドソンなどが知られています。その一方で、予想外の足踏みを強いられるブランドは少なくありません。フランスのスーパー「カルフール」、イタリアのアパレル「ヴェルサーチ」、化粧品小売の「セフォラ」や「ブーツ」などのブランドは、日本社会とのさまざまなギャップに直面し、撤退を余儀なくされました。

それでも日本は、依然として人口1億2400万人を擁する世界第11位の巨大市場。消費者は洗練され、上質なものを正しく評価し、新しい提案や体験との出会いを待っています。たとえ不況下であっても、海外ブランドにとってこれまでと変わらずチャンスと可能性に満ちた市場なのです。

今回は、海外企業が日本でビジネスを展開する際に考慮すべき5つの現実について解説します。


ステークホルダー全員に根回しせよ

日本でのビジネス展開に当たっては、小売業者、メーカー、合弁企業、投資家などのローカルパートナーと協働する機会が多くなります。

海外企業がブランド、製品、サービスを立ち上げる際は、このような関係者全員と事前に連携できるかどうかで成否が分かれます。

これは日本社会が、個人のリーダーシップよりも集団の意思決定に従うことを優先しているため。会議で合意したはずなのに、明確な理由もなく覆されることはよくあります。それはステークホルダーの誰かが、異なる見解を持っているサインなのです。

日本で長期的な成功を収めるには、関係するステークホルダー全員への根回しが必須。予め理解と連携を求め、漏れなく支援を得られるように準備してから会議に臨みましょう。

面倒なプロセスですが、かるく考えてはいけません。このような早期の取り組みが、日本でのビジネスの成功につながる可能性を高めてくれます。


スペシャリストを気取るな

海外に比べると、日本ではスペシャリストよりジェネラリストが重んじられる傾向にあります。専門家の洞察や分析に基づいた意思決定ではなく、常に組織の文化というレンズを通して評価を下す場面が多いのです。

日本の大企業では、専門分野に特化した社員があまり注目されません。むしろ多様な部門で経験を積んだジェネラリストが、出世コースに乗って幹部になります。

幅広い専門知識と経験を持つ人は、それだけで傾聴に値する人物と見なされます。反対に、優秀な専門家の主張が聞き入れられず驚くこともあるでしょう。大局を変えるシャープな視点より、バランス感覚やリスク回避を重視するのが日本社会の特徴です。

日本の潜在的なパートナーと良好な関係を確立したければ、ビジネス以外でも共通の関心を探し当てること。そして自分自身の幅広い経験や見識をアピールしましょう。日本では特定の分野を究めた専門家より、教養のある「何でも屋」が尊敬されます。


サービスは世界のトップリーグと心得よ

日本を訪れた外国人なら、誰もが知っているはず。日本のレジャー施設、レストラン、ショップなどにおけるホスピタリティとサービスは、間違いなく世界のトップレベルです。海外ブランドを日本に持ち込むなら、高度なサービスや利便性に慣れた日本の消費者を喜ばせる努力が欠かせません。

このサービス競争には近道はありません。展開するブランド、製品、サービスについて、消費者との接点を洗い出し、すべてのシナリオを精査しましょう。日本市場に合わせたシームレスな消費者体験の創出は不可欠です。

日本の消費者は、サービスへの期待値が高いことすら自覚していません。ネットでの買い物は、当日配送や時間指定が標準。長距離を高速で走る新幹線も、定刻で3分おきに発着します。これが1分でも遅れると、鉄道事業者に非がなくても謝罪するのが日本の当たり前。こんな国は、世界のどこを探してもなかなか見当たりません。

日本でサービスを展開するなら、超一流のレベルで競い合う覚悟を持ちましょう。


日本に溶け込んでから個性を出せ

海外のブランド、製品、サービスを日本に持ち込む際は、祖国のカルチャーを押し出しすぎないこと。日本の消費者の期待に沿ったローカライゼーションが必要になります。

オムライス、ナポリタン、ハイボール、シティポップ。西洋から持ち込まれた文化が、日本独自の解釈を経た上で受け入れられた例は枚挙にいとまがありません。

成功例のひとつが、ネスレの「キットカット」です。赤いパッケージが目印のクラシックなチョコレートウエハースとしてグローバルに知られるこのブランド。一方、日本では抹茶味やわさび味など、200種類以上の限定フレーバーを発売してきました。急速に変化する消費者の好みに合わせた企業努力の結果です。

また「きっと勝つ」と語呂が似ているため、受験生への贈り物として定着。春になると「さくら風味」のキットカットが発売され、日本人の季節感に寄り添ったブランドとして愛されています。

日本はハイコンテクストな文化色が強い国。海外ブランドによるユニークな提案も、消費者がすんなり受け入れられなければ意味がありません。日本人の感性に合わせながら、それでいて目新しいアクセントを最適な形で表現する必要があります。海外から見れば特殊な文化や習慣も、日本人にとっては当たり前のこと。徹底したローカライズは、ブランドを成功に導く上で必須です。


果報は寝て待て

典型的な日本型組織は、急速な改革が不得意です。一方で得意なのが、小さな改善の積み重ね。海外でそのまま通じる「カイゼン」は、全員でビジネスのあらゆる機能を少しずつ向上させていくことを目的としています。特定の部門が変化を先駆けることは少なく、全体が一斉に歩みを進めていくスタイル。何も変わっていないように見えるので、焦りを感じることもあるでしょう。

トップダウンで一気に改革を行おうとするリーダーは、いつしか周囲から孤立している状況に陥ります。その一方で、ボトムアップでゆっくり合意を形成していくオペレーションスキルは高く評価されます。

波風を立てず、リスクを冒さず、小さな軌道修正を繰り返しながら変化は起こります。その過程で意思決定は常に遅れ、直接的な要望は曖昧な態度で受け流されるでしょう。正式な提携を目指したり、取引を成立させたり、一気に市場参入したり、イノベーションを推進したり、短期的な成果が欲しい海外企業にとってはイライラの連続になるかもしれません。

しかし、方法が正しければ、望んだものはきっと手に入ります。それまでにかかる時間を辛抱強く待ちましょう。