自動車業界の変化を牽引する
シャーリン・エデ氏 ダイムラー・トラック・アジア
製品・広報・グローバルマーケティング部門部長
「Eat Take-Away」シリーズでは、各国で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーにインタビューを行い、今後のビジョンや課題などについて伺います。1日の流れから、近年急激な変化を遂げているブランド体験と顧客体験の分野における経験談、アドバイスなど、盛り沢山の内容でお届けします。記事の最後では、インタビューから得た3つの重要な学びをリストアップ。お見逃しなく。
Vol. 2では、Eat Creativeの事業成長責任者、ロバート・コステロが、自動車業界の雄、ダイムラー・トラック・アジアで製品・広報・グローバルマーケティング部門部長を務めるシャーリン・エデ氏にインタビューを行いました。
(インタビューは一部内容を編集しています。)
ロバート・コステロ:1日の流れを教えていただけますか。
シャーリーン・エデ:ダイムラー・トラック・アジアは、2つの傘下企業の運営を中心に行っています。1つが日本に本社を置く三菱ふそうトラック・バス。同社の中核はFUSOブランドで、170以上の国々で同ブランドのトラックやバスを販売しています。そして、インドのチェンナイでバーラト・ベンツの製造・販売を行っているダイムラー・インディア・コマーシャル・ビークルズです。
私達のネットワークは各国に広がっており、朝はポートランドのアメリカチームとの通話からはじまり、その後に日本チーム、午後は中国チームとインドチーム、そして最後はヨーロッパチームとのコミュニケーション、という流れになることが多いです。
ふそうブランドに関しては多様なブランド要素を網羅したブランドガイドラインを定めており、ケニアやタンザニア、マレーシア、インドネシアをはじめとする各国のチームから、コミュニケーションを作成する際にガイドラインをどのように適用すればよいか、質問を多く受けています。ガイドラインの内容が各国市場のオーディエンスに適しているか、柔軟に活用可能かどうか、目を配っています。
RC:2023年、楽しみにしていることや、注目しているテーマはなんですか。
CE:今後楽しみにしているプロジェクトのひとつが、量産EVトラック「eCanter」の新たなモデルの発売です。これは、小型商用車の電動化の普及に向けて重要なステップとなります。ダイムラー・トラック・アジアにとって非常に大きなプロジェクトというだけでなく、日本の電動モビリティ分野を一変する製品になると考えています。
インドでは創業10周年を迎え、2022年はとくに実りの多い年となりました。一方、中国では国内製造・国内販売のEV大型トラック「eActros」を発売しました。このほか、アメリカでいくつか楽しみなプロジェクトが進んでいます。
RC:日本のEV市場はどのように変化しているのでしょうか。
CE:日本では、それまで小さく変化していた物事が、突然急激な進化を遂げるような傾向が見られます。最近では全国にハイブリッド車が普及していますが、15年前は全く見かけませんでした。プリウスは数多くのモデルチェンジを経ていますが、一気に普及したのは3〜4代目のモデルになってからです。それまでのモデルとの違いは、デザインとアクセシビリティです。「自分のライフスタイルに合う、メリットが多い」と、人びとが気づいたのです。同様のことが、小型トラック分野でも起こることを願っています。
日本では、それまで小さく変化していた物事が、突然急激な進化を遂げるような傾向が見られます。最近では全国にハイブリッド車が普及していますが、15年前は全く見かけませんでした。プリウスは数多くのモデルチェンジを経ていますが、一気に普及したのは3〜4代目のモデルになってからです。
RC:2023年とこれからの未来、自動車業界にとって、重要になるテーマについて伺えますか。
CE:「Connectivity(IoT化)」「Autonomous(自動運転)」「Servitisation / Shared(シェアリング)」「Electrification(電動化)」の頭文字を取った「CASE」ということばが、近年注目を集めています。これらは総じて、商用車・乗用車を問わず、自動車業界が注視しているテーマです。CASEについて語られるようになってから5年ほど経っていますが、毎年、4つの内異なるテーマに焦点が当たっています。
例えば、Uberが台頭した時は、「Servitisation / Shared(シェアリング)」に焦点が当たりました。「車を買う必要はない、シェアすればいい」という、新たな主張です。次に注目が集まったのが自動運動。そして今年は、電動化がトレンドになっています。一方、2024年、日本では運送業ドライバーの時間外労働の上限が新たに設けられる予定です。その際は「Connectivity(IoT化)」「Autonomous(自動運転)」が重要なテーマになるでしょう。
2024年、日本では運送業ドライバーの時間外労働の上限が新たに設けられる予定です。その際は「Connectivity(IoT化)」「Autonomous(自動運転)」が重要なテーマになるでしょう。
RC:持続可能な社会の実現に向けて、自動車業界ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
CE:商用車分野に関していえば、顧客は個人ではなく企業で、企業の最優先事項は利益を上げることです。一方、乗用車分野は違います。顧客は個人で、エコロジーに関心を持っており、持続可能な社会に貢献可能なら、一定の支出を厭わないケースが多く見られます。
企業顧客にとってより重要なのは、長期的に見て、ビジネス面でのメリットを得られるかどうか。企業顧客に持続可能な社会の実現に目を向けていただくために、商用車の製造企業として取り組まなければいけないのは、経済的な利点が得られる製品を開発すること。この点でダイムラー・トラック・アジアは多くの成果を上げており、2023年はとくに、eCanterの需要が高まることを願っています。
企業顧客にとっては、長期的に見てビジネス面でのメリットを得られるかが重要です。
日本では、川崎と中津の製作所で使用する電源を100%再生可能エネルギーでまかなっており、今後、各国の製作所で同様の取り組みを行っていく予定です。例えば、チェンナイの商用車製作所では、見渡す限りの太陽光パネルが並んでいます。ダイムラー・トラック・アジアでは製品のみに留まらず、製造プロセスおよびサプライチェーンのすべての段階を通じて、持続可能な取り組みを行っています。
ダイムラー・トラック・アジアでは製品のみに留まらず、製造プロセスおよびサプライチェーンのすべての段階を通じて、持続可能な取り組みを行っています。
RC:ブランディングの観点から見て、ダイムラー・トラック・アジアを競合ブランドと差別化している要素はなんでしょうか。
CE:歴史と実績、そしてグローバル化がブランディングの中核となっています。私達は長い歴史を持っています。FUSOブランドは90年の歴史を誇り、ダイムラーはトラックを発明したことで知られています。FUSOブランドやダイムラー・トラックの製品は数多くの国々で親しまれており、それが顧客の信頼と安心につながっています。
FUSOブランドは90年の歴史を誇り、ダイムラーはトラックを発明したことで知られています。それだけでなく、FUSOブランドやダイムラー・トラックの製品は数多くの国々で親しまれており、それが顧客の信頼と安心につながっています。
とくに電気自動車に関しては、一部の顧客にとってはなじみがないだけでなく、大きな投資となるため、なかなか導入に踏み出しにくいケースが見られます。そのため、電気自動車に移行する際は、最初の導入フェーズだけでなく、その後のライフサイクルに渡って信頼の置けるブランドが求められています。
RC:2023年、何を達成すれば成功と言えるでしょうか。
CE:個人的なゴールとしては、私達の製品を目にした時、「電気自動車だ」と言うのではなく、「eCanterだ」と言っていただけるようになることです。「ティッシュ」ではなく「クリネックス」、「掃除機」ではなく「フーバー」と言われるように。
個人的なゴールとしては、私達の製品を目にした時、「電気自動車だ」と言うのではなく、「eCanterだ」と言っていただけるようになることです。「ティッシュ」ではなく「クリネックス」、「掃除機」ではなく「フーバー」と言われるように。
企業ブランドとして、ダイムラー・トラック・アジアをより多くの方に知っていただけるとうれしいです。「ダイムラー・トラック・アジアで働きたい」「ダイムラー・トラック・アジアの一員であることを誇りに思う」、そんな風に言っていただけるようになりたいですね。人材を巡る競争は、これまで以上に激しくなっています。リモートワークが浸透したことで、半径5km圏内の企業だけでなく、国を跨いで、より多くの企業と競争しなければなりません。
ダイムラー・トラック・アジアは、その長い歴史やグローバルなネットワークといった強みを持っているだけでなく、国籍に関係なく、すべての人がキャリアを築くチャンスをつかめる企業です。多様な人びとが働いており、ほんとうにグローバルな企業といえます。多くの企業がダイバーシティについて言及しているのを目にしますが、実際に浸透しているケースは多くないですから。
Eat Take-Away
柔軟かつ一貫したブランディング:グローバルなブランド価値を確立する上で、新たな市場に参入する際、ブランドを一貫して発信することは非常に重要です。そのためには、各国チームに向けて明確なガイドラインを定めることが不可欠。一方で、それぞれのチームが自国の文化や慣習に応じたコミュニケーションを行えるよう、必要以上にルールで縛らないことが求められます。ロゴや色遣い、画像のスタイル、トーンオブボイスなど、常に同一でなければならに要素を定めつつ、各国チームが創造的な表現を行える「余白」を残すことは、ブランドの正しい管理と発展につながります。
ブランドの理念に沿った的確な雇用戦略:国や業界を問わず、イノベーションを創出し、競争力を強化すべく、多くの企業が優秀な才能を巡って競争しています。ターゲットとなる人びとに響くようなブランドのビジョンや価値観、従業員エクスペリエンス、そしてこれら未来の社員にどこで、どのようにアプローチするかが、成功の鍵といえます。そのためには、顧客エクスペリエンスと同じレベルで、従業員エクスペリエンスを重視しなければなりません。
信頼を通じた変化の創出:顧客と深い信頼関係を築けているブランドは、顧客の行動に変化を起こすことが可能です。これらのブランドは、明確なビジョンの下、理想と現実のギャップをうめるという、重要な役割をになっています。ガソリン車から電気自動車への移行、自然に優しい製品の普及などがその一例です。人びとが信頼を置くブランドは、今日そして明日の社会に貢献する行動を起こす責任を負っているだけでなく、大きなチャンスを得ているのです。
Eat Creativeはダイムラー・トラック・アジアのパートナーエージェンシーとして、EVトラック「eCanter」の発表やブランディング、社内コミュニケーションや従業員エクスペリエンスを支援しています。プロジェクトの詳細については、こちらからご覧ください。