ほんとうのラグジュアリーとは何か  

カーソン・グローバー氏 ペニンシュラホテル
ブランドマーケティング&コミュニケーション部門 次長

2023. 02. 26

ロバート・コステロ / 事業成長責任者

今回新たにはじまった「Eat Take-Away」。このシリーズでは、各国で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーにインタビューを行い、今後のビジョンや課題などについて伺います。1日の流れから、近年急激な変化を遂げているブランド体験と顧客体験の分野における経験談、アドバイスなど、盛り沢山の内容でお届けします。記事の最後では、インタビューから得た3つの重要な学びをリストアップ。お見逃しなく。 

Vol. 1では、Eat Creativeの事業成長責任者、ロバート・コステロが、ペニンシュラホテルでブランドマーケティング&コミュニケーション部門の次長を務めるカーソン・グローバー氏にインタビューを行い、業界内外で高い評価を得ている歴史深いホテルブランドの成長の秘訣について伺いました。

(インタビューは一部内容を編集しています。)

ロバート・コステロ:1日の流れを教えていただけますか。

カーソン・グローバー:ペニンシュラホテルでは、ラグジュアリーとは「選択肢の広さ」だと考えています。私達の願いは、食事を楽しんだり、スパでくつろいだり、ウェルネス、美容、文化やアートなど、お客様が望む要素を最適な方法で実現することです。例えば、ウェルネスプログラム「Life Lived Best」は、5分間の瞑想から1日を通して行われる多様なアクティビティまで、ご要望に応じて組み合わせてご利用いただくことが可能です。

デジタル面では、お客様とのコミュニケーションを重視しています。Eメールでのやり取りを煩わしく感じる方もいらっしゃいますし、一般的に見ても、電話での会話は少なくなっています。ペニンシュラホテルで導入している「PenChat」では、Instagram、WhatsApp、WeChatなど、お客様が望む方法でのコミュニケーションが可能です。

RC: ゲストがより快適に過ごせるよう、ペニンシュラホテルが取り組んでいることはなんですか。

CG: ペニンシュラホテルでは、ラグジュアリーとは「選択肢の広さ」だと考えています。私達の願いは、食事を楽しんだり、スパでくつろいだり、ウェルネス、美容、文化やアートなど、お客様が望む要素を最適な方法で実現することです。例えば、ウェルネスプログラム「Life Lived Best」は、5分間の瞑想から1日を通して行われる多様なアクティビティまで、ご要望に応じて組み合わせてご利用いただくことが可能です。

デジタル面では、お客様とのコミュニケーションを重視しています。Eメールでのやり取りを煩わしく感じる方もいらっしゃいますし、一般的に見ても、電話での会話は少なくなっています。ペニンシュラホテルで導入している「PenChat」では、Instagram、WhatsApp、WeChatなど、お客様が望む方法でのコミュニケーションが可能です。

お客様に私達のホテルのリピーターになっていただけている理由のひとつが、おもてなしを行っているスタッフです。スタッフはそれぞれのお客様の好みやこだわりを記憶しています。ご自宅のようにリラックスして過ごしながら、ペニンシュラホテルのブランドコミュニティの一員になっていただければと思っています。

デジタル化やメタバースなどペニンシュラホテルの取り組みは多岐にわたりますが、重要なのは、お客様が私達のホテルを訪れるのは、そこでのすばらしい体験を求めているからということです。

デジタル化やメタバースなどペニンシュラホテルの取り組みは多岐にわたりますが、重要なのは、お客様が私達のホテルを訪れるのは、そこでのすばらしい体験を求めているからということです。いわば、「最高のおもてなしが待っている」という確信。各プロパティのスタッフは、それぞれ幅広い経験や視点、知識を持っており、お客様に快適な時間を過ごしていただけるよう、それらを活用しています。それこそが、ブランドをブランド足らしめている理由です。

RC: 2023年、ペニンシュラホテルそしてホスピタリティ業界にとって、重要になるテーマについて伺えますか。

CG: 業界を通して言えることですが、第一に、コロナ禍以前の状態にビジネスを戻すこと。そして、その過程を通じて、ブランドのアイデンティティをそこなわないことです。ビジネス的に、よりマクロな視点で言えば、私達のホテルらしいおもてなしが可能な経験や知識を持ったスタッフを新たに見つけることでしょうか。

ペニンシュラホテルは今年、2つの新たなホテルの開業をひかえています。コロナ禍によるブランディング活動の縮小を鑑みて、ふたたびお客様の関心を喚起し、ブランドを発信していくために、新たなブランドキャンペーンを予定しています。このキャンペーンは、これまでに類を見ない内容になります。目的としては、ほかのブランドとの差別化を図り、ユニークなポジションを確立すること。ペニンシュラホテルは、特別なブランドだと自負しています。今の時代は多くの人が、そこにしかない出会いを求めて旅をし、そこでしか得られない体験が可能なホテルに宿泊することを望んでいるのです。

ペニンシュラホテルはアジア最古のホテル企業として、アジアンスタイルのおもてなしを約100年前に確立した歴史を持っています。その歴史と、そんなおもてなしを実現するスタッフについてどのように発信していくのかが、とくに重要になります。

RC: 2023年、楽しみにしていることはなんですか。

CG: 運営の視点から見ると、2つのホテルの開業を同時にひかえており、これは歴史的な瞬間になると思っています。ロンドンとイスタンブールでペニンシュラホテルのブランド体験を届けられるようになるのは、非常に楽しみです。いずれも素敵な街ですから。イスタンブールは文化の交差点。新たなホテルは、エネルギーに溢れるこの街で、ボスポラス海峡を望む最高のロケーションにオープンします。ロンドンでの開業は、30年越しに実現することになります。それはすばらしいことになるでしょうね。

ブランドキャンペーン「Peninsula Perspectives」は、私達にとってここ10年で初めての試みとなり、重要なステップと言えます。コロナ禍を経て、ふたたび人びとを迎え、ブランドコミュニティを広げられることを願っています。

個人的な話になりますが、2年前と比べて、旅行への意欲が高まっています。コロナ禍の影響によって社会が分断・混乱し閉鎖的になっていた時間を経て、旅行自粛が解かれた今、異文化の尊重や体験がふたたび求められるようになっています。旅行は、その手段のひとつ。そして、旅行には宿泊先が必要で、そのために私達がいるのです。

RC: 逆に、2023年、気をつけなければならないと考えている点はなんですか。

「ブランディングの効果を測るのはむずかしい」という点でしょうか。これは業界を問わず言えることですが、昨今は短期間で成果を上げ、数値化することが求められています。企業の経営役員のなかでCMO(最高マーケティング責任者)の就任期間は最も短くなっているらしく、以前とは状況が変化しています。これまで、CMOの役割はブランドをじっくり育てることでした。ブランドが飛躍を遂げるためには、入念な準備が必要だからです。それを踏まえて、同僚にはブランドを確立するのは時間を要すると伝えています。ブランドがなければ、ビジネスは成立しません。多くの人が、このことを忘れてしまうのです。

ブランドを確立するのは時間を要すると伝えています。ブランドがなければ、ビジネスは成立しません。

このほかにマーケターにとって重要なのが、メディア主導のマーケティングからコンテンツ主導のマーケティングに移行すること。今年、ホスピタリティ業界と旅行業界がコロナ禍以前の状況に戻っていくなかで、ブランドがどのようなストーリーをだれに伝えるのか、そしてそのためにはどのようなコンテンツを手がけるべきなのか、考えなければなりません。私個人としては、どのメディアやプラットフォームで発信するかより、何を伝えるのか、ブランドのメッセージが人びとの心に響く内容かどうかを重視しています。それをどのように私達のオーディエンスに届けるかについては、一緒に働いているチームを信頼しています。

何を伝えるのか、ブランドのメッセージが人びとの心に響く内容かどうかを重視しています。

RC: 2023年、何を達成すれば成功と言えるでしょうか。

CG: ビジネスが成長すれば、成功と言えると思っています。言いかえれば、より多くのお客様に私達のホテルに宿泊していただいて、ブランドを体験していただくこと。同時に、新たに開業を予定している国々でブランドの認知度を高めて、コミュニティを育てていくことです。

Eat Take-Away

  1. 顧客とのつながりの強化にはブランド体験が不可欠: ブランドに望む要素が多様化しているなかで、ブランドリーダーやマーケティングリーダーは、自身のブランドがユニークな体験や特別な価値を届けられているか、日頃から自問することが必要です。ユーザーとの関係の強化や新たなファンの創出につながっているか、ブランドのアイデンティティを表現するのに役立っているのか、アナログ・デジタルを問わず、ブランドのエコシステムを通じてそれぞれのタッチポイントを効果的に活用できているか目を配ることが不可欠と言えます。

  2. 人こそすべて: 近年テクノロジー業界ではレイオフの嵐が続いていますが、広い視点で見ると、人材の確保はこれまで同様に重要なテーマになっています。イノベーションを牽引し、競争力を強化し、ビジネスの長期的な成長に貢献してくれる才能を巡って、以前と変わらず多くの業界で競争が続いています。ブランドを差別化し新たなタレントを確保するためには、明確なビジョンの下、ブランドの価値観の定義や従業員エンゲージメントの向上に取り組むブランドファーストの手法が鍵になります。

  3. ブランディングに一貫して取り組むために: ブランドを確立し、ビジネスの幅広い側面においてブランドファーストの意思決定を支援する上では、ブランディングが組織にどのような価値を創出するのかステークホルダーに伝えることが重要です。ビジョン、ストーリー、価値観、体験などを含むブランド戦略を明確に定めておけば、意思決定を行う際のよりどころになります。これにより、すべてのタッチポイントで、自ブランドのアイデンティティを一貫して伝えることが可能になるはずです。

Eat Creativeは、グローバルラグジュアリーホテルブランド、ペニンシュラホテルと長年にわたり協働しており、東京からロンドンまで、ほかに類を見ない体験をお客様やパートナー、従業員に届けるお手伝いをしています。ペニンシュラホテルとの過去のプロジェクトについては、こちらからご覧いただけます。