真のホスピタリティで人々に豊かさを
トム・ラウントリー IHGホテルズ&リゾーツ ラグジュアリー&ライフスタイルブランド担当バイスプレジデント
「Eat Takeaway」は、世界で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーに直近の抱負と課題を教えてもらうシリーズ。インタビューから得られた学びを「Takeaway」として読者のみなさまにお持ち帰りいただきます。

今回登場するのは、IHGホテルズ&リゾーツのトム・ラウントリー氏。ラグジュアリー&ライフスタイルブランドの責任者として、これからの目標や課題について語っていただきました。
英国に本社を置くIHGは、世界最大級のホスピタリティ企業。世界100か国以上で約7,000軒の施設を運営し、約375,000人を雇用しています。そのポートフォリオは、インターコンチネンタル、リージェント、シックスセンシズ、キンプトンなどの個性的なホテルブランドで構成されます。
ホテル業界は、世界中で各社がしのぎを削り、日本市場における競争も激化してきました。利用客に選ばれてリピートしてもらうため、各社はゲスト体験と差別化戦略の強化に知恵を絞っています。サステナブルな企業イメージを競う風潮からも、新しい課題とチャンスが生まれつつあります。
The 3 Key Quotes:
1. 人々の「旅に出たい」「体験を買いたい」という根源的欲求が、ホテルブランドの可能性を広げてきました。
2. ラグジュアリーなホスピタリティは、モノではなく感性の価値によって評価されます。
3. 企業目標はブランドの文化を醸成して他社との差別化を際立たせ、お客様とスタッフを活気づけます。
毎日どのような課題に取り組んでいますか?
ホスピタリティ業界のキャリアには、多彩でドラマチックな体験が不可欠です。今日はロンドンにあるIHG本社のデスクから、ウィンザー城を眺めています。過去を振り返ると、中東オマーン勤務時代には、チャールズ国王を接遇したこともありました。人とのつながりを育むホスピタリティ業界では、やりがいが尽きることはありません。ホテルの運営には芸術のような側面もあり、チームの仲間たちと力を合わせながら入念な演出を心がけています。
現在の私の役割は、IHGにおける高級ブランドとライフスタイルブランドの統括です。共に働いてくれるチームにも恵まれ、ホテル業界にとっても面白い時代が到来しています。人々の「旅に出たい」「体験を買いたい」という根源的欲求が、ホテルブランドの可能性を広げてきました。
ここ6年ほどは、新しいブランドの立ち上げと他社ブランドの買収に明け暮れました。単一ブランドの会社だったインターコンチネンタルホテルズ&リゾーツが、シックスセンシズ、リージェントホテルズ&リゾーツ、キンプトン、ヴィニェットコレクション、ホテルインディゴをあわせた全6ブランドのオーナーになったのです。私が管轄する高級ブランドだけを数えても、世界70か国以上で500軒以上の施設を展開しています。ラグジュアリー&ライフスタイルのカテゴリーで、今やIHGは世界最大の企業です。
最近の数年間は、リージェントのブランド再構築に力を入れてきました。世界中の富裕層(HNWIS)を意識してポジショニングを見直し、現代の上質なラグジュアリーを象徴する存在になるべく努力を続けています。旗艦店を数軒開業させ、昨年末には「リージェントサンタモニカ」と「リージェントバリチャングー」もオープン。現在は世界で11軒のリージェント施設を運営しています。

リージェント サンタモニカ
世界初のラグジュアリーなライフスタイルホテルとして出発したインターコンチネンタルも、ブランドを包括的に進化させている最中です。インターコンチネンタルは、長年にわたって「旅が人々の意識を広げ、文化を結びつける」という信念に基づき、努力を重ねてきました。このコンセプトを具現化する進化により、上質なモダンラグジュアリーを志向するお客様から再評価いただいています。インターコンチネンタルと共に四半世紀を歩んできた私にとって、歴史の継承はとても名誉な役割です。
ヴィニェットコレクションは、旅のベテランから初心者までを魅了するブランドです。思い出に残る目的地を所在地に選び、各施設が唯一無二の個性を表現しながらヴィニェットらしい価値観で結びついています。ブランドの成長ペースは予想を上回り、2031年までに100軒のホテルを展開するという野心的な十年計画も半分以上が達成済みです。昨年は、世界最先端の技術を備えた上海スノーワールド(上海耀雪冰雪世界)などの素晴らしい施設もコレクションに加わりました。今年後半には、ドバイのシエルタワーで世界最高層のホテルが開業します。

シエルタワー ドバイ
知る人ぞ知るIHGの歴史は?
それぞれのホテルには素晴らしい歴史があり、ホテルの壁に尋ねたら驚くべきストーリーを聞かせてくれるでしょう。でもお客様の秘密は決して口外しません(笑)。さまざまなホテルが歴史的イベントの舞台となり、あらゆる分野のお客様をお迎えしてきました。マーティン・ルーサー・キング牧師は、1963年に「インターコンチネンタル・ザ・ウィラード・ワシントンD.C.」で有名な「私には夢がある」の演説をしました。また女優のグレース・ケリーは、1955年にリージェントホテルの「カールトン・カンヌ」でモナコ大公レーニエ3世と運命の出会いを果たします。当時のグレースは、ヒッチコック監督の映画『泥棒成金』の撮影中でした。
インターコンチネンタルの創設者は、パンアメリカン航空を創設したフアン・トリップです。トリップの事業は、人々を新しい時代へと連れていきました。地球上のあらゆる場所に、数時間で大勢の人々が移動できる時代が到来したのです。空の旅が普及するにつれ、世界はかつてないほど広く開かれ始めました。このような開拓者精神が、1946年に誕生したインターコンチネンタルホテルの背景にもあるのです。最初のインターコンチネンタルホテルは、当時活躍していたボーイング314(通称クリッパー)の座席数と同じ客室数で設計されていました。
キャリアを始めた1990年代半ばから実感している業界の変化は?
私が、初めてホテルのロビーに足を踏み入れた時を振り返ると、ホテル業界も大きく様変わりしました。テクノロジーが進歩し、ライフスタイルが変わり、なにより旅行が身近になったことによって業界も大きく隆盛しました。でもその本質は変わっていません。ラグジュアリーなホスピタリティは、モノのではなく感性の価値によって評価されます。つまり時期や場所や目的にかかわらず、どんなお客様がホテルにチェックインしてもご満足していただくことで、末永く交流を育んでいけるようになるのです。
企業目標「True Hospitality for Good」の実践は?
「善義のための 真のホスピタリティ」という目標の言語化が、すべての行動を後押しする指針となっています。企業目標はブランドの文化を醸成して他社との差別化を際立たせ、お客様とスタッフを活気づけます。インターコンチネンタルが推進する「生涯の思い出づくり」から、ヴィニエット・コレクションの「A Means For Good」のような慈善活動支援まで、私のチームが最も影響力を発揮できる分野でもあります。
万人に開かれた旅行体験への需要は、明らかに高まっています。インターコンチネンタルは、今後数年間で大きな進歩を遂げるでしょう。インクルーシブなアプローチは、ホテル業界のあらゆる側面で重視されます。サービスの文化からコミュニケーションのスタイルまで、空間や体験のデザインに重要な変化が起こっています。
たとえば従来型のフロントデスクには、すべてのお客様に細やかなサポートやケアを提供できない不利な点もありました。今では色彩、質感、照明の選択にも細心の注意を払い、身体、認知、感覚などに障害のあるお客様にも細やかに対応できます。まずは建物の環境から着手し、その後はスタッフの服装や館内の案内表示なども改善してきました。運営、備品、設備などのあらゆる側面に気を配ることで、すべてのお客様がおもてなしを実感できるようにしています。
世界識字率向上基金とのグローバルなパートナーシップを通じて、ヴィニェットコレクションは2040年までに文盲根絶のミッションを支援しています。ホテルの所在地で実施される有意義な取り組み(移動図書館や識字プログラムなど)は、各地域だけでなく世界中のコミュニティにも変化をもたらすでしょう。読み書きの基礎的なスキルがない人は、なかなか活動範囲を広げられません。ヴィニエットコレクションの使命は、地域社会の人々が視野を広げ、潜在能力を発揮できるように教育の機会を支援することです。

大規模なポートフォリオ統括の課題は?
私は世界中のホテルで、8万人以上の素晴らしい同僚たちをサポートする立場にあります。このポートフォリオの大きさを課題と考えるのではなく、自分の責任や特権の大きさなのだと自覚しながら仕事をしています。現在のホテル業界は、130以上の高級ブランドがひしめく激戦区。その中で際立つ存在となるべく、各ブランドの魔法を具現化してくれるのは現地で働く素晴らしい人々です。
各ホテルブランドには明確な強みがあり、まだ引き出されていない潜在能力も眠っています。卓越したサービスを日々提供するため、これまで築き上げてきた基盤をさらに強化しているところです。大切なのは、一貫してお客様の期待を上回るサービスを提供すること。各ブランドが掲げているゲスト体験の約束は、チームの粘り強い献身によって実現されます。年中無休で努力を続ける一人ひとりに、敬意を感じない日はありません。
日本国内や世界中のホテル業界で、競争力を維持する秘訣は?
インターコンチネンタルにおける私のキャリアは、日本企業がオーナーだった時代から始まりました。現在も日本市場は、IHGにとって最優先の市場です。日本での事業を開始した1964年は、東京で初めてのオリンピックが開催された年。また成長と発展の象徴として知られる甲辰の年であり、新幹線が開通した年でもありました。全日空と提携が結ばれた2006年以降も、数多くの画期的な出来事が起こります。IHGとANAのマイレージクラブを活用して、30軒以上の提携ホテルをポートフォリオに迎え入れてきました。
現在はキンプトン、インターコンチネンタル、シックスセンシズの3ブランドで18軒の高級ライフスタイルホテルを日本国内に展開しています。昨年は「シックスセンシズ京都」をオープンし、「リーガロイヤルホテル」と「ザ・ウィンザーホテル洞爺」を日本初のヴィニエットコレクションに含めました。日本における高級ライフスタイルブランドの拡大計画は、数年後の「リージェント京都」開業によってひとまず完了する予定です。
昨年の干支は再び甲辰にあたり、IHGの60周年を記念してダイヤモンドアニバーサリーを祝いました。 最近導入されたデジタルノマドビザにより、多くの人々が日本に滞在しながらリモートで働けるようになっています。日本政府は2030年までに年間6,000万人の外国人観光客を迎えようという野心的な目標を掲げており、IHGのラグジュアリー&ライフスタイルホテルもその目標達成に寄与すべく体制を整えているところです。

リージェント京都
これから数年間のビジネスチャンスや課題は?
今はAIの話題で持ちきりですね。人間同士のやりとりをChatGPTに置き換える予定はありませんが、AIのインテリジェンスを活用してゲスト体験をパーソナライズする有意義な方法を模索しています。
業界でも特にユニークなロイヤリティプログラム「IHG One Rewards」では、お客様のお好みでマイルストーンリワードを選択できるようになりました。フード&ドリンクリワード、スイートルーム確約アップグレード、年間ラウンジアクセス、ボーナスポイントなどの特典から選択できます。
お客様へのメッセージには、自動翻訳の技術を導入しています。この機能によって、お客様はみな母語でコミュニケーションできるようになりました。言語の壁が取り除かれ、やりとりも円滑です。お客様の満足度を高めながら収益を増大させ、IHGへの愛着を感じていただけるようになるでしょう。
2025年に達成したいビジョンは?
ラグジュアリーブランドとライフスタイルブランドは、ハイバリューな成長を継続的に推進してきました。各ブランドが立てている計画も、楽しみなものばかりです。これから数年間で、インターコンチネンタルは札幌、ネパール、ケープタウンに初進出し、紅海やハロン湾のリゾート展開も拡大する予定。またキンプトンは系列ホテルが100軒を超え、メキシコで初のオールインクルーシブ施設「キンプトン・アシエンダ・トレス・リオス・リゾート スパ&ネイチャーパーク」をデビューさせます。ヴィニエットコレクション、シックスセンシズ、ホテルインディゴでもさまざまな予定がありますので、どうぞ今後もご期待ください。

インターコンチネンタル ハロン湾
Eat Take-Away
パーソナライズが勝利の鍵。AIなどのテクノロジーを駆使して、ゲストへのオファーも高度にパーソナライズできる時代が到来しました。ゲストごとのニーズや要望に合わせたプログラムの開発によって、ブランドへのロイヤリティが促進されて長期的な成功を呼び込めます。
企業目標で成長をドライブ。IHGが企業目標とする「True Hospitality for Good」(善義のための 真のホスピタリティ)は、組織全体の意思決定と行動を規定します。正しい意思決定、魅力的な企業文化、イノベーションの加速など、商業的成功に向けたメリットは疑いようもありません。企業目標の明確化が、今日と明日の利益をもたらします。
ゲスト体験を最優先。ブランドの個性を体現したゲスト体験は、ホテルが提供できる最大の価値。自社製品の機能性や価格設定だけでなく、このゲスト体験とタッチポイントのエコシステム全体を適切に設計しなければ成功は望めません。細かな体験が基準に達していないと、予想以上に大きな問題が発生します。
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