これからの未来をえがく日本のブランド


2023. 02. 27

ロバート・コステロ / 事業成長責任者

Eat Creativeは20年以上にわたる活動を通じて、常識にとらわれない理念、業界をリードするようなブランド主導のアプローチ、幅広い層にメッセージを届けるための新たな顧客体験など、先進的な取り組みを行っているブランドに目を向けてきました。今回の記事では、各国のブランドリーダーやマーケティングリーダーに向けて、ブランディングやコミュニケーション戦略が進化の一途を遂げるなか、新たな発見や学びが詰まった国内発ブランドを一部ご紹介します。

1. 三井住友銀行:ブランドとデザインで金融業界にイノベーションを起こす

国内銀行のなかで2番目に多いシェアを誇り、資産額によるグローバルな銀行ランキングでは12位に位置づけられている三井住友銀行。多くの巨大な銀行がそのサイズゆえに変化しずらく、金融商品や顧客体験の上でより小回りの効くスタートアップなどに遅れを取るかなか、三井住友銀行は数少ない例外といえます。銀行取引の多くがいまだ紙ベースや現金で行われている日本で、三井住友銀行はデジタル化に先駆的に着手。2016年にはデザインチームを社内に設立し、顧客体験を刷新しました。2019年にはキャッシュレス社会の実現に向けて「新しい財布」をコンセプトに銀行アプリのリニューアルを遂行し、2023年には「Olive」と呼ばれるデジタルエコシステムを導入。デビットカード、クレジットカード、ポイントカードを1枚のマルチナンバーレスカードに集約しています。
これらのコミュニケーションツールやデジタルイノベーションは、一貫したビジュアルアイデンティティに支えられており、同行は日本企業のブランド価値を測る2022年の「Best Brands in Japan」の上位25位にランクインしています。


2. TSUTAYA:多様な顧客体験を通じてブランド価値を創造する

1983年、TSUTAYAは喫茶店を併設しCDのレンタルなど行う書店として創業。それから40年が経った今、動画配信やオンラインショッピングの台頭と発達により多くの書店チェーンやビデオレンタル店が経営にくるしむなか、TSUTAYAは2020年には過去最高の年間販売額を達成しています。
その背景には、TSUTAYAの運営企業カルチュア・コンビニエンス・クラブがえがくブランドの成長戦略が潜んでいます。その中心となっているのは、「蔦屋書店」をはじめとする実店舗の進化。同企業の運営する店舗の多くは、単なる商業空間から、街ごとのニーズや人びとのライフスタイルに合う、カフェやイベントスペースを複合する総合的なコミュニティスペースへと進化を遂げています。
「カルチュア・インフラをつくっていく」というミッションの下、国際的な建築賞を受賞するような店舗デザイン、貴重な書物に囲まれたラウンジやバー、日本の伝統美術の展示など、街の人の流れを変え人びとが集うランドマークとなるようなスペースを多角的に展開しています。
このようなハイブリッド店舗への需要は高まっており、カルチュア・コンビニエンス・ストアは新たな顧客体験を創出しているだけでなく、ローカルコミュニティの活性化に貢献しています。日本国外にとどまらず、グローバル企業がほかのエリアほどプレゼンスを確立していない東南アジアへの参入を進めており、2030年までにマレーシアだけで55箇所の新店舗の建設を睨んでいます。


3. 無印良品:「アンチブランド」というスタンスによりユニークなポジションを確立する

「無印良品」という名前を聞くと、多くの人がシンプルで実用的な美学の宿るデザインの製品をイメージするかと思います。1989年の創業以来、寝具や衣類、家具、食品など幅広いライフスタイル製品を展開しており、2001年には日産とのタッグを組み、自動車の開発まで行っています。
従来のブランディングの観点から見ると、無印良品のかかげる「ノーブランド」という理念は、非常にユニークといえます。このコンセプトは、すべてのタッチポイントにおいて一貫しており、ミニマルなデザインの製品、シンプルなパッケージ、バウハウスのようなエッセンスを感じる店舗デザインは、人びとから注目を集めるために必死な競合ブランドとは一線を隠しています。一般的な広告活動やマーケティングは行わない一方で、口コミによる認知度向上を強みとし、店舗やオンラインストアでの販売強化に向けてMUJI Passportアプリをはじめとするデジタルツールを導入しています。
こうした手法は、企業による絶え間ないマーケティングや、ブランドの名を冠するだけで値段を上げるようなコンシューマリズムに辟易している人びとに響いています。無印良品は、ムダを省いたデザインにより、顧客に寄り添うブランドを体現しているといえるでしょう。
2022年、原材料の高騰と円安が営業利益に多大な影響を及ぼした一方、国際市場での今後の成長や、今なお多くの顧客に響くブランド観は、従来のブランディングの慣習から外れた例外として、目が離せないブランドといえるでしょう。


4.星野リゾート:フラットな組織文化が実現する最高のおもてなし

ラグジュアリーなリゾートホテルや温泉旅館、都市観光ホテルまで、100年以上の歴史を通して全国で幅広いプロパティを運営している星野リゾート。近年では日本にとどまらず、中国やインドネシアなどへ進出しています。プロパティごとに特徴や客層が異なる一方、ローカルエリアの文化や歴史とのつながり、非日常体験など、その場所ならではの旅の楽しみを一貫して重視していることで知られています。コンセプトやブランディングが一貫している一方で、ロケーションごとに異なる観光資源を発信・活用しています。これを可能にしているのが、 フラットな意思決定による柔軟な意思決定です。
星野リゾートでは、すべての従業員がブランドの理念を深く理解し、イベントの企画やコミュニケーションの発信に取り組んでいます。トップダウンではなくスタッフ主導でブランド体験を開発することで、プロパティごとに異なるユニークな体験を届けており、ロイヤリティの向上を実現しています。このほか、顧客満足度調査や財務諸表を役職に関わらず閲覧可能にすることで、すべての従業員がブランドのビジョンの実現を自分ごととしてとらえられるようにしています。 旅行自粛が解かれ、アジアの旅行産業がふたたび活気を取り戻すなか、星野リゾートのこれからに注目が集まります。


5. バーミキュラ:手料理をすべての人に、ずっと使える製品を

アパレル、食品、テクノロジーなどジャンルを問わず、大量生産・大量消費・大量廃棄という喫緊の課題への取り組みを迫られているB2C企業。より高品質でロングライフ、買い替え頻度の低い製品が求める声が高まっている一方、こうしたニーズに応えられているブランドは多くないのが実情です。
2010年に2人の兄弟が開発した調理器具ブランド「バーミキュラ」は、数少ない例外といえるでしょう。オーブンポットをはじめとする同ブランドの製品は、素材を本来の味を引き出すだけでなく、長く使い続けられるようなデザインになっています。そのすべてが職人による手づくりで、日本の伝統的な技術を活用し、使いやすく美しいメイドインジャパン製品として、高い評価を得ています。バーミキュラの鍋やフライパンは競合ブランドと比べて高額ですがロングライフで、リペアサービスが充実しており、買い替え頻度が少ないという特長を持っています。このほか、専属シェフが製品の特長を最大限に引き出すべくレシピを開発しているなど、ブランド理念の「時代を超えて愛される調理器具」を実現するために、幅広い取り組みを行っています。