地球環境を最優先

シメオン・チェン氏 ビタソイ・インターナショナル サステナビリティ部長

2023. 09. 14

ロバート・コステロ / 事業成長責任者

「Eat Takeaway」は、世界で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーに直近の抱負と課題を教えてもらうシリーズ。インタビューから得られた学びを「Takeaway」として読者のみなさまにお持ち帰りいただきます。

今回登場するのは、ビタソイ・インターナショナル(香港特別行政区)のシメオン・チェン氏。前職のMTR(香港の鉄道会社)時代からグローバル・レポーティング・イニシアティブの国際サステナビリティ基準審議会理事として産業界をリードし、現在は世界的な豆乳飲料メーカーでサステナビリティ部長を務めています。事業を通じた環境保護のプロセスについて、さまざまなヒントをうかがいました。

(インタビュー:ロバート・コステロ / Eat Creative事業成長責任者)

ビタソイはどんな企業ですか?

創業80年以上の老舗企業です。当初からビタソイが目指していたのは、地域の人々に手頃な価格で栄養を供給すること。つまり地域社会への貢献が、常に存在意義のひとつであると考えていました。香港特別行政区と中国本土に製造拠点があり、中国本土の製造拠点はすべて中国市場用でグループの稼ぎ頭になっています。シンガポールには豆腐工場があり、フィリピンでも合弁会社を運営しています。オーストラリアにも完全子会社がありますが、ここではアジア向けの製品を一切生産していません。チャイナタウンやアジア食料品店で見かけるような製品ではなく、シリアルにかける豆乳などの欧米人向け製品を製造しています。約1年前には、大豆ベースのヨーグルトを発売しました。製品の大半はまだ飲料が占めていますが、豆腐、シンガポールの麺類、オーストラリアのヨーグルトなどポートフォリオを増やしているところです。

当初からビタソイが目指していたのは、地域の人々に手頃な価格で栄養を供給すること。つまり地域社会への貢献が、常に存在意義のひとつであると考えていました。

ビタソイに入社して4年目と伺いましたが、現在どのような考えをお持ちですか?

ビタソイに惹かれた理由は、サステナビリティをビジネスに統合しようという企業側の意欲。直属の上司が、グループCEOであることも重要でした。なぜならESGの課題解決には、前例や慣習の変更が付き物だからです。社員に求めているのは、これまでの仕事のやり方を見直して、サステナビリティに配慮が不十分な要素を見極めること。サステナビリティ部門の役割には、チェンジマネジメントの要素も多分に含まれています。

変革を促すアプローチには、ボトムアップとトップダウンの両方が必要です。そのため上級管理職のサポートは欠かせません。さまざまな部署と話し合いながら、慣習を変えるべき理由について理解してもらいます。変革を急ぐため、正しいと信じる方向へ大きく舵を切ることも必要になります。ベテラン社員も多いビタソイの改革には難しさもありますが、乗り越えれば大きな前進になります。愛社精神が強い社員でも、いきなり働き方は変えられません。そのためトップダウンとボトムアップの組み合わせが必要になるのです。

ビタソイは上場企業ですが、変革が困難なほどの大組織でもありません。会社の規模を拡大する前に、現在のような役割で改革を実行できるのはチャンスだと思っています。

直属の上司が、グループCEOであることも重要でした。なぜならESGの課題解決には、前例や慣習の変更が付き物だからです。変革を急ぐため、正しいと信じる方向へ大きく舵を切ることも必要になります。

ビタソイが事業やブランドの知名度を世界に拡大させていく過程で、サステナビリティの推進に変化はありますか?

ビタソイは会社の大方針としてサステナビリティを推進する枠組みがあり、その枠組みのもとでさまざまな目標を設定しています。たとえば製品に占める植物由来の割合、糖分量、総脂肪量などの細かな数値目標。また包装、製造工程、排水、エネルギー、埋立廃棄物ゼロなど製造上の目標。さらには炭素排出量のデータを開示し、職場の安全性や地域社会に貢献するプログラムもあります。

このような枠組みはビタソイ内の企業グループを対象としたもので、目標はすべての事業部門に適用されます。私の役割は、グループ全体の方向性を決めること。社内でたくさんの取り組みを進め、数値目標を定めたり仕事の進め方をチェックしたりしています。簡単に達成できる目標では張り合いがないので、ちょっと背伸びした目標を設定しますが、同時に現実的でありたいとも考えています。目標を設定する前には、あらゆる要点を踏まえてグループ全員と話し合います。

サステナビリティは、ひとつの部署だけでは達成できません。

ビタソイにおけるサステナビリティへの取り組みは、他企業とどんな違いがありますか?

ビタソイが特殊な存在だとは思いませんが、サステナビリティをビジネスに組み込もうという姿勢は明確です。製品のほとんどが植物由来で、社会や環境に配慮しながら植物中心の食生活を推進する事業方針も掲げています。製品のポートフォリオ自体が、企業の責任を体現しています。

この2年間、私のチームは企業グループ内のマーケティングチームや人事チームと一緒にビタソイが掲げる目的をアップデートしてきました。目標は具体的かつ明確なもので、植物中心の食生活を追求した内容です。

いったん定義された目的は、大規模な社内のコミュニケーションプログラムに展開します。まずは上級管理職が目的を理解し、それぞれのチームに伝えられるように「トレーナー養成」のような形でサポートします。大切なのは、ビタソイの目的と会社の方向性を周知すること。サステナビリティは、ひとつの部署だけでは達成できません。全社員を巻き込む必要があるのです。

消費者の教育も企業の責任です。サステナブルな製品がなぜ重要なのか、なぜ他の製品よりも好ましいのか、なぜ購入を検討すべきなのかを訴えなければなりません。

顧客や経済情勢などの外部要因が、社内のサステナビリティ方針に影響を与えることは?

さまざまな要素から影響を受けます。市場が変われば、消費者の関心も異なるもの。環境保護の意識、原料の調達先、サプライヤーの責任感なども変わります。でも世界共通の傾向は、若い消費者ほどサスティナビリティに関心が高いことです。

ボトルに使用するプラスチックの量を減らしても、すぐ売り上げの増加にはつながりません。でもプラスチックの使用量を減らすのは、ビタソイが企業の責任として取り組んでいること。コスト削減の意味もあるので、自主的に進めています。

ベジタリアンやビーガンの食生活に移行する若い消費者も増えてきました。流行に乗っているだけの人もいれば、健康や環境を意識している人もいます。このようなお客さまに、製品を通じてより良い選択肢を提供するのが企業の仕事。選ばれるかどうかは、マーケティングやポジショニングなどの要因に左右されます。当社にも、糖分が高い定番商品があります。たまに食べるような嗜好品ですが、このような製品の消費を減らしたいのであれば、代替品の提案も必要になるでしょう。

具体的な改善を指示する必要はありません。目的を理解してもらえれば、変化は後からついてきます。

消費者の教育も企業の責任です。サステナブルな製品がなぜ重要なのか、なぜ他の製品よりも好ましいのか、なぜ購入を検討すべきなのかを訴えなければなりません。以前なら「そんな環境の話なんかしたって商品は売れないよ」と言うマーケティング担当者も世間には大勢いました。でもそんな態度は急速に変わっています。マーケティングチームの方から、積極的に共同プロジェクトの提案が出るようになったのです。これは素晴らしい変化ですね。

サステナビリティを重視するビジネス方針は、優秀な人材候補の獲得につながっていますか?

具体的なデータの裏付けはまだありませんが、間違いなくそうなっていくでしょう。当社グループCEOが幹部を組織する際にも、サステイナビリティに対する理解の深さや、仕事での優先度について候補者の本心を尋ねてきました。ビタソイのビジョンに賛同し、仕事にサステナブルな考えを根付かせられる人材が必要です。企業の経営陣がこの点を強く意識していれば、いずれ道が開けてくるでしょう。

あなたにとっての成功とは?

企業としての数値目標は5年がかりで定めており、まずは2025年までの進捗を評価する必要があります。その後は2030年に向けて新たな目標を設定することになるでしょう。数値に表れない目標もあります。それは正しい目標設定によって、会社に好ましい変化を起こすことです。

みんながサステナビリティを血肉化できたら、私はもう必要ありません。

このような野心を社内に浸透させるため、さまざまな部署に出向いて話し合ってきました。サステナブルな目標が、各部門の仕事と関連している事実を説明するのです。具体的な改善を指示する必要はありません。目的を理解してもらえれば、変化は後からついてきます。これは継続的なプロセスで、手を抜くこともできません。目的に対する理解と取り組みを強化したり、従業員一人ひとりに深く根付かせるコツを考え続けています。究極のゴールは、各部署の人たちが今までとは違うやり方でサステナブルな業務慣習を生み出すことです。

この仕事もいずれは辞めることになるでしょう。みんながサステナビリティを血肉化できたら、私はもう必要ありません。それが会社にとっての成功だからです。

個人としての目標は、できるだけ多くの人々の視点を変えること。サステナビリティを最優先に考え、その考え方を仕事や私生活に生かせるような変化を後押ししたい。ビタソイでも、他の企業でも、それができたら大満足です。

Eat Take-Away

  1. サステナビリティは経営陣直轄に。

    サステナビリティの問題は、単一の部門やチームで解決できません。ビジネスとブランドを効率よく前進させるには、経営陣の賛同が必要。リーダーの理解がなければ取り組みの方向性は定まらず、従業員にもサステナビリティの目標と幅広い事業戦略とのつながりが見えません。このような混乱があると、大切な資源を浪費してしまいます。

  2. 個々の従業員に変化を生み出させる。

    サステナビリティの目標を具体的に実現するには、部署や役割に関係なくメンバー全員が参加すること。個々人の仕事と企業のサステナビリティを関連付けて理解してもらうには、教育とコミュニケーションのプログラムが欠かせません。従業員一人ひとりに強い目的意識を根付かせることで、企業としてのサステナビリティ推進が自走できるようになります。

  3. 目標を設定して達成度を評価する。

    温室効果ガス(スコープ1〜3)の排出量や、水などの資源消費量を評価します。組織の規模や構成によっては困難な場合もありますが、独自の目標を掲げてモニタリング指標を設定するのが大切。エネルギー消費量、オフィスのプラスチック使用量、食品廃棄物、従業員の通勤手段などを細かく測定し、二酸化炭素排出量を減らして環境への影響を軽減するためのベンチマークを定めましょう。