自然に優しいファブリックの台頭

新たなイノベーションが次々に登場しているファッション業界。今回は、次のトレンドとして注目を集める自然に優しいファブリックの普及に向けて、コミュニケーションとブランディングを活用する方法を紹介します。

2021. 08. 18

コレトジョン

過去5年間で明らかになったこと、それはファッション業界が環境に及ぼしている悪影響。国連環境計画(UNEP)の調査結果は、その逼迫感を示しています。

  1. ファッション業界は、全炭素排出量の約10%を占め、これは航空旅行と海上輸送を合わせた数値より多い
  2. 1着のジーンズを製造するのには、3781リットルの水が必要となる
  3. 毎秒、ゴミ収集車1台分の衣類が処分されている

これら環境問題への答えが、衣類の製造を停止すること断言するのは早急でしょう。衣類は文化やスポーツの発展の礎であり、自己表現の手段。ファッションの価値と環境問題の両方を念頭に、衣類業界は多様な取り組みを進めています。

昨今、多くのファッションブランドやファブリックメーカーが、環境に優しいファブリックの研究に投資を行っています。これらの取り組みは、3つの分野に分かれています。1つ目に、製造における資源の消費量の削減と環境を害する物質の使用停止。 2つ目に、衣類のリユース。そして3つ目に、衣類の循環利用です。

とはいえ、より重要なのは、これらのイノベーションを普及すること。環境に優しいファブリックの認知度を向上し、エシカルな消費を広めながらムダを減らすことが、ほんとうの進歩といえるでしょう。

これを踏まえると、環境に優しいファブリックの普及は化学やテクノロジーの分野を超えて、行動喚起、言いかえればコミュニケーションやブランディングの分野に及んでいます。ファッションブランドやファブリックメーカーは、自社のイノベーションが人びとのくらしにどのような影響を与えるのか、それぞれのストーリーを伝えなければならないのです。

では、ブランディングを通じて、環境に優しいファブリックやイノベーションを広く普及するには、どのような手法がかんがえられるでしょうか。重要なのは、次の3つの要素です。1つ目に、テクノロジーを分かりやすく、印象的に伝えるコミュニケーション。2つ目に、時流に沿った文化的な視点を活用すること、そして3つ目に、環境保護について語るのではなく、ブランドのソーシャルスタンスにフォーカスすることです。これらの要素がなければ、グリーンウォッシング、上辺だけのコミュニケーションや印象操作をしているように見えるリスクを負うことになり、愛されるブランドから遠ざかることになります。

 

ネーミングに配慮する

環境に優しいファブリックや”グリーンライン”を広める上でとくに重要なのがブランド名です。ブランド名は、製品のベースとなっているテクノロジー、それがユーザーのくらしにどのような影響を与えるのか、そしてその環境への利点について示唆しています。ブランド名は、これらすべてを短く簡潔に伝えることを求められます。

例えば、Adidasの「Primeblue」と呼ばれるラインはリサイクルした海洋(Blue / ブルー)プラスチックを用いた高品質(Prime / プライム)のパフォーマンスウェアで、一方「Primegreen」はより一般的なリサイクルマテリアル(Green / グリーン)を用いています。取り組みを伝えるのは、1つの単語だけで充分。つかわれなくなったシューズを循環利用し、スポーツグラウンドの建設などに用いるNikeの取り組み「Nike Grind」は、リユースの際の製造プロセス(Grind / 砕く)とアスリートのパフォーマンス(腕を磨く)の両方を示唆することばからインスピレーションを受けています。

 

時流や文化の変化に応じる

習慣は変わり、人いとの行動は徐々に変化します。人びとに環境問題に目を向けるよう説得することがむずかしいとして、ほかの文化的変化とのつながりに応じてブランドのスタンスを伝えることで、文脈を創り出すことは可能です。例えば、昨今では原点回帰という視点から、頑丈なロウデニムへの注目が高まっています。着用を続けることでやわらかくなる特徴や経年変化による”アタリ”が”ヒゲ”。ロウデニムは通常のデニムと比べ製造に要する水の量が少ないことから、その文化的背景を踏まえ、環境への配慮をブランドストーリーの一部に組み入れることが可能です。

こうした取り組みを行っているブランドのひとつがNudieJeansです。顧客が着なくなったジーンズ回収し、修理し、販売する「Re-use」プロジェクトは、それぞれのジーンズが刻んできたユニークなストーリーを伝え、それを新たに受け継いでいくことをコンセプトにしています。テクノロジーと文化を融合することで、環境への配慮と高度な製造技術を両立することを可能にしているのです。同じように、ユニクロの「Blue Cycle Jeans」やリーバイスの「Waterless Jeans」は、ジーンズを製造する際の水の使用量を削減するため、研究所で開発した最先端のテクノロジーを取り入れています。

ほかの手法として、環境への取り組みを文化的なムーブメントを超えて、各国の文化と結びつけることが挙げられます。スウェーデンのアウトドアブランド、Fjällrävenは、余ったファブリックやマテリアルを用いてバッグやジャケットを製造するプロジェクト「Samlaren」を行っています。

 

テクノロジーブランドから学ぶ

テクノロジーがより複雑化する一方で、多くの企業がそれをより分かりやすくユーザーに伝える取り組みを進めています。例えばAppleは製品のパフォーマンスの向上をハードウェアやソフトウェアに関する数値を用いずに、誰にでも理解できる方法で伝えています。

ファブリックブランドは、これらのブランドから多くを学ぶことができるでしょう。ネーミングやメッセージング、数字を組み合わせることで、よりシンプルなコミュニケーションに。North Faceによる限定ライン「Bottle Source」は、アルプス山脈から回収した18,000キログラムのペットボトルをリユースした「Recover Tee」と呼ばれるTシャツコレクションです。このほかの手法としては、インフォグラフィックを用いることで、取り組みをより分かりやすく伝えることが可能です。日本発のブランド、U-Dayの製品「RE:PET」は、ペットボトルをモチーフにした遊び心溢れるインフォグラフィックや写真を用いて、3つのペットボトルから1つのエコ傘を製造していることを示しています。それぞれの傘の色は「オーシャンブルー」「エバーグリーン」「ブルームイエロー」など、自然界から着想を得た名前がつけられています。

時として、テクノロジーに温かみをプラスすること。Goldwinのウールライン、Keshichiは、製造段階で排出される余ったウールをリユースしているだけでなく、これを愛知県尾張に受け継がれる羊毛業の伝統と、その過程で必要となる職人や織機のストーリーに紐づけています。それはテクノロジーの進化と人びとの環境への取り組みの融合で、着る人にとって、どこか温かみを感じる、より壮大なストーリーとなっているのです。

環境への配慮に関するメッセージだけでは不充分。環境に優しいファブリックの製造やこれらを用いたブランドの形成にとどまらず、より深化したコミットメントを行うことが求められます。Patagoniaはブランドのビジョンと製品、コミュニケーションすべてが一貫している企業の一例。「BuyLess, Demand More」と題した同ブランドのキャ​​ンペーンは、人びとにセカンドハンドのギアを買うよう促し、フェアトレードやリユースマテリアルを要求することを顧客に負わせ、気候危機の啓蒙に取り組んでいます。最近では、一部の企業に、パタゴニア製品にロゴをつけることを取り止め、ブランドの倫理感をより厳格に守っています。同様に、Nikeはリユースマテリアルを特徴とする「Move to Zero」と呼ばれるアパレルラインをリリース。ゼロカーボンおよびゼロになるという同ブランドのコミットメントを象徴しています。

気候危機が現実に迫るなか、衣類業界は果たすべき役割をになうことを求められるようになっています。イノベーションの研究が進む一方、これらが社会に普及しなければ、影響はとどまる。ブランディングとコミュニケーションは、危機を回避する一助となり、より明確にブランドのメッセージを伝え、文化的な文脈に紐づけることが可能です。そしてそれこそが、環境に優しいファブリックがその役割を果たすために必要なのです。