マインド・ザ・ギャップ

グローバルでのブランドコミュニケーションに求められる要素

2020. 06. 02

屋木一馬 / ストラテジックプランナー)

ビジネスのグローバル化が進むなか、日本企業も海外市場に向けたブランディングやコミュニケーションのあり方を見直す必要に迫られています。これまでモノづくりやテクノロジーを強みとし、海外市場でポジションを確立してきた日本のブランドも、市場が成熟化した今、機能的な価値以外での差別化が求められています。これから海外進出を目指す企業や買収などにより海外事業の強化を掲げる企業にとって、各国で一貫したブランドコミュニケーションを行うことは、ビジネスの今後の成長を左右する大きな要素となるといえるでしょう。

Eat Creativeではこれまで20年以上にわたり、多くのブランドのグローバルコミュニケーションをサポートしてきました。この経験にもとづき、こうした企業に向けて、いくつかの共通する課題とそれを改善するためのポイントを紹介します。

ブランドのあり方を定義する

商品やサービスの内容ありきで、機能的な価値ばかりが取り上げられる一方、ブランドがもつ情緒的な価値は見過ごされがちです。いわば、ブランドのストーリーがないがしろにされており、「顧客にとってどういうブランドであるべきなのか」という定義が明確でなく、理解が浸透していないケースも多く見られます。

「製品は工場でつくられるが、ブランドは心のなかにつくられる」ということばがあります。言い換えれば、ブランドとはロゴや企業名、あるいは商品やサービスではなく、「人びととの精神的なつながり」なのです。ブランドを定義し、きちんと管理するためには、ブランドの理念(誰になにを約束するのか)、歴史(どのようなルーツをもつのか)、そしてこれからの未来へのビジョンまでをかんがえる必要があります。

これは顧客に向けたブランディングだけではなく、社員に向けたインナーブランディングにとしても意識しておくべきです。社員がブランドを理解し、体現することが、ブランド確立に向けた第一歩になります。

海外展開を意識する

ブランドを開発または刷新する際には、はじめから海外展開を視野に入れ、さまざまな文化的な要素にあらかじめ配慮しておくことが求められます。例えば、ブランド名の発音のしやすさ、ブランド名やロゴに他文化による誤読や誤解の可能性はないか。また、ブランドメッセージを翻訳する際も、意味だけでなく情緒的なニュアンスが伝わるよう、ネイティブによる精査を行うこともたいせつです。

買収などを通じて海外企業がグループ傘下に入る際、ブランドのストーリーやスタンスに解釈のずれが起きてしまうといった課題もよく見られます。こうした理由のひとつに、ブランドの理解がミッションやロゴ、タグラインなど、一面的なものにとどまってしまっていることが挙げられます。ブランドの色合い、パーソナリティ、トーン・オブ・ボイスをことばだけでなく感覚的に理解できるビジュアルで表現し、実例も交えたブランドブックは、そんな理解のギャップを解消するツールとして役立ちます。

どのように感じられ、どのように見え、どのように話しかけ、どのように行動しているか、そのすべてが「ブランド」なのです。

「縛りすぎない」ブランドガイドラインをつくる 

ブランドブックを配っていても、各国が独自の裁量でブランディングを行っている場合には、ブランドの見え方や伝わり方がブレてしまうことがあります。そのため、各国の言語に最適化された、より詳細なブランドガイドラインも必要になります。上記にあるように、ブランドとはロゴだけに留まらず、ブランドガイドラインもまたロゴやフォント、カラーなどのブランドアセットの管理以外に、文章の表現やウェブサイトやキャンペーンにおけるデザイン、社員の行動規範、商品の開発や接客のしかたに至るまでを一貫して行うための基準となるべきものです。

それぞれの国がブランドガイドラインを遵守することが求められる一方、必要以上にルールで縛ってしまうと、ブランドの成長が妨げられる場合もあります。絶対に変えてはいけないものから解釈の自由があるものまで、ルールの範囲と優先順位を明確にすることで、各国独自の市場環境や顧客にも適応できるようになります。

ガイドラインをつくる際には、各国のブランド担当者との双方向のコミュニケーションがたいせつです。国内の担当者ではわからない文化的文脈もあるはず。画一的な表現の限界を超えた「ブランドらしさ」が各国で実現できていること、それがグローバルブランディングのほんとうのゴールといえます。