目標を着実に実現するアプローチ

ハンナ・ハリン氏 サンゴバン・ディストリビューション・スウェーデン サステナビリティ責任者

2023. 08. 08

ロバート・コステロ / 事業成長責任者

「Eat Takeaway」は、世界で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーに直近の抱負と課題を語っていただくシリーズ。インタビューから得られた学びを「Takeaway」として読者のみなさまにお持ち帰りいただきます。

今回登場するのは、サンゴバン・ディストリビューション・スウェーデンでサステナビリティ責任者を務めるハンナ・ハリン氏。従業員15万人以上、75カ国に拠点を持つ世界最大級の建材グループの一員として、企業や個人が立てた目標を実現するためのヒントについて解説していただきました。

(インタビュー:ロバート・コステロ / Eat Creative事業成長責任者)

昨年末に入社されたサンゴバンディストリビューションスウェーデンについて教えてください。

サンゴバン・ディストリビューション・スウェーデン(以下SGDS)は、スウェーデン最大の建材グループ。国内に180箇所の拠点を持ち、売上高は約20億ユーロです。グループを構成する5社には、それぞれの市場で長い歴史があります。建築資材を販売する会社なので、顧客の大半はスウェーデン全土の工事請負業者など。住宅、学校、空港などの建設にも関与しているため、消費主導型の企業ではありません。社会の基盤を機能させる企業として、「世界をより良い住まいに」という目標を真剣に追求しています。

社会の基盤を機能させる企業として、「世界をより良い住まいに」という目標を真剣に追求しています。

私たちのビジョンは、SGDSがスウェーデンでサステナブルな建設を主導する企業になること。そのためには、実現すべき課題が山ほどあります。私も同僚たちとじっくり各部門特有の課題を学び、サステナビリティに関する知識を深め、正しい目標を定義していかなければなりません。お客さまからも、サステナビリティやSGDSの能力について多くの質問が寄せられます。サプライチェーンとの関わりも、やりがいにつながっています。サステナブルな建設を主導するには、革新的なサプライヤーを見つけて協力しあう必要があります。お客さまが二酸化炭素排出量を削減する手助けをし、地球環境や生物多様性への影響を低減するために建設業界全体として何ができるのかを模索しています。

世界の二酸化炭素排出量の40%が建築部門によるもの。SGDSのような企業でサステナビリティを推進する意義は?

違いを生み出す必要がある立場にあることで、モチベーションが高まってきます。建設業界が、二酸化炭素排出量に大きな影響を与えていることは周知の事実。でも前職のH&Mで私が話題にしてきたのは、Tシャツの製造と環境保全の関係だけでした。建設部門のサステナビリティが注目されてこなかったのは、バリューチェーンがファッション業界よりも複雑で、環境保護の意識や説明責任も低かったから。エンドユーザーの消費者からも、厳しい質問は飛んできませんでした。

建設部門のサステナビリティが注目されてこなかったのは、バリューチェーンがファッション業界よりも複雑で、環境保護の意識や説明責任も低かったから。エンドユーザーの消費者からも、厳しい質問は飛んできませんでした。

前職では、人々の価値観に影響を与えることでライフスタイルや消費行動を変えるのがひとつの目標になっていました。建設業界は、そんな影響がもっと切実な分野。難しい仕事だからこそ、ここでサステナビリティを推進する仕事に魅力を感じました。政治的な利害や社内での対立にも向き合い、業界全体の構造を調べ、泥臭いけどずっとやりがいがある仕事です。個人的なモチベーションもたくさんありました。サステナビリティに明確にコミットしているSDGSのような企業なら、大胆な解決策も模索できます。

私たちの目標は、科学的根拠に基づいています。二酸化炭素排出量を減らそうというとき、販売している製品の範囲を考えると相当に大きな目標でもあると意識できます。約150万種類の製品を精査すれば、その多くがより良い選択肢に置き換えたり、リサイクル素材から再生できるものだとわかるのです。

スカンジナビア諸国の建設業界でサステナビリティを主導している企業といえば、デンマークのダンフォス社、スウェーデンのSGDS社、フィンランドのストラ・エンソ社があります。北米、アジア太平洋地域、ヨーロッパなどの各地域で、サステナビリティに対する認識の違いは?

世界の建設業界を見渡すと、サステナビリティに対する認識や連携がまだまだ未熟です。多くのB2B産業も課題は同じ。その一方で、自動車産業のような消費者向けの産業部門はやや先進的です。グリーンディール政策を打ち出すEUが、自動車業界の改善に取り組んでいることも原因のひとつ。環境保全に向けた取り組みが、全加盟国の地方レベルで実施される政令にも反映されています。このような状況は、自動車市場への期待の大きさも示しているのです。

森林伐採の規制や、業界のカーボンニュートラル化を後押しする動機が活発化し、サステナビリティ報告への期待も高まっています。EUのCSR報告は、あらゆる産業の評価に大きな影響力があります。小さな努力の積み重ねで、システムに大きな変化をもたらす方法といえるでしょう。報告の義務がある約5万社の大企業は、サプライチェーンのパフォーマンスも報告しなければなりません。つまり川上から川下まで、すべての企業を対象とした検証とトレーサビリティが欧州では要求されているのです。だから欧州の企業は、どの市場で事業を展開するにしても大きな差別化ができると私は考えています。

このような変化が起きている中で、特に注目すべき分野は?

顧客に提供する価値やサービスを考え直す上で、たくさんのチャンスが眠っているのは流通の分野です。建築や修繕のため、さまざまな製品や材料の売買がおこなわれています。そのような取引のデータも差別化要因になりうるでしょう。製品ポートフォリオの一部では、価格見積もりと一緒に環境へのインパクトも計算できるようにしました。お客さまが新しい規制の要件に従う際には、旧来の予算だけでなく、プロジェクトごとに炭素排出を抑えるための予算も把握する必要があります。そこでお客様を教育する方法として、見積もり時に炭素排出量も算出しているのです。

こうやって、サステナブルな役割を強化するのも私たちの役割。私たちは多くの企業と巨大なサプライチェーンを結んでいますが、SDGSのようにカーボンニュートラルの目標を掲げている巨大な企業もあれば、従業員が数人しかしない町工場もあります。このような中小企業は革新的な再生可能資源をすぐに導入できる身軽さがあるものの、サステナブルなデータを手際よく報告できません。そこで私たちが代わりにデータを揃え、お客さまが発注するプロジェクト全体の環境負荷をサプライヤーにまで遡って見られるようにするのです。お客さまが発注先の取り組みを比較し、より良いオプショ ンを見つけることで変化を促し、革新的な製品が市場で拡大する手助けをすることもできます。価格競争力に劣る革新的な製品は苦戦も予想されますが、顧客がプロジェクトの炭素削減目標を設定していれば、サステナブルな価値も無視できません。

循環型社会を目指す私たちにとって、これは面白い流れです。再利用建材の需要が増えれば、新規に生産される建材の流通業者にも大きな変化が起こるでしょう。再利用建材はカーボンフットプリントがゼロであり、炭素排出量の目標があるプロジェクトには魅力的なオプションです。責任あるカーボンマネジメントを謳ったプロジェクトは、すでに投資や融資を受けやすくなっています。使用済みの材料を回収してサプライチェーンに戻し、新しい商品を生産する循環型経済はさらに大きな役割を果たせるようになるでしょう。私たちはそのようなロジスティクスを保持して、各建築現場に配送している立場。幅広いサプライヤーとつながり、お客さまの窓口になれる中心的な存在です。だからこそ変革を起こす責任があり、機は熟しています。

再利用建材の需要が増えれば、新規に生産される建材の流通業者にも大きな変化が起こるでしょう。

顧客の視点だけでなく、働く人たちの視点も重要です。SGDSの従業員は、サステナビリティの実現に向けてどんな取り組みをしていますか?

従業員は、私たちの戦略を実現する重要な担い手です。サステナビリティであれ、通常の事業であれ、私たちの目標は従業員を動員して取り組みを強化すること。自分たちの現状を把握し、ビジョンに向かって何をすべきか理解してもらう必要があります。私たちがどこへ向かっているのかを知り、未来における企業の役割について定義しなければなりません。それはサステナブルな社会のなかで語るべきストーリーでもあります。この方向付けによって、サステナブルな建設を主導する企業としてのSGDSをリアルに感じていただけるようになります。

従業員は、私たちの戦略を実現する重要な担い手です。サステナビリティであれ、通常の事業であれ、私たちの目標は従業員を動員して取り組みを強化すること。自分たちの現状を把握し、ビジョンに向かって何をすべきか理解してもらう必要があります。

知識も大切です。お客さまやサプライヤーとの打ち合わせでも、チーム内での活動でも、サステナビリティの問題について一人ひとりが堂々と語り、その知識を糧にしていると感じられる必要があります。一人ひとりの従業員にも果たすべき役割があり、新しい知識を理解して日々の仕事につなげなければなりません。

そして従業員に積極的な貢献の機会を与え、影響力を持たせることも重要です。SDGSには、サステナビリティの推進に参加するためのツールがたくさんあります。例えば、オンラインのロールプレイ研修もそのひとつ。社員が会社のCEOとなり、炭素、従業員満足度、予算について適切な決定を下すゲームです。フランスのNGOであるクライメート・フレスクと共同で、最新の国連IPCC報告書に関するワークショップも開催しています。これは誰もが気候変動の原因と結果について理解できる内容です。社内キャンペーンで「カーボン基金」を設立し、「どうすればもっとサステナブルな企業になれるか」と従業員全員に問いかけてアイデア実行の資金を割り当てました。社員の声で特に多かったのは、「とにかくやってみよう」という意見。大金が不要な取り組みもあり、まずは行動を始めて知識のギャップを埋めることが重要なのです。


社員の声で特に多かったのは、「とにかくやってみよう」という意見。大金が不要な取り組みもあり、まずは行動を始めて知識のギャップを埋めることが重要なのです。

定期的な取り組みによって、社内の状況を把握できます。サステナブルを謳いながら、オフィスでゴミの分別すらできない会社には大きな課題があります。職場の問題を解決できない企業が、口先だけの目標を信じてもらうのは難しいこと。みんなで常にチェックし、正しいことをしているか、共に歩んでいるかを確認することが本当に重要です。

サステナブルを謳いながら、オフィスでゴミの分別すらできない会社には大きな課題があります。

サステナビリティ担当者としての目標は?

私たちの目的に向かって、仲間たちが意欲的に取り組んでくれること。サステナブルな社会は、決して一人では実現できません。究極の目標は、サステナビリティ責任者が不要になること。つまり事業のすべてにサステナビリティ重視の考えが反映された状況を作ることです。


究極の目標は、サステナビリティ責任者が不要になること。つまり事業のすべてにサステナビリティ重視の考えが反映された状況を作ることです。

この目標を今年中に達成することはできないでしょう。まずは必要な知識とツールを同僚たちに与えることが素晴らしい出発点となります。私たちのビジネスが、サステナビリティと観点でお客さまにどんな貢献ができるのかを理解すること。変化をめぐる対話がお客様との間でさらに深まり、サステナブルな建設業界への移行を目指す最良のパートナーとして地位を確立したいと願っています。

Eat Take-Away

  1. 北極星のような目標を持つ。

    説得力のある強固な目的を設定することで、意思決定が明確になります。そんな目的を持った組織内では、その目的に資する行動だけが実行されます。顧客、従業員、パートナー、地域社会に対して明確な理由を示すことができれば、競合他社ともはっきり差別化できます。理想と動機が行動を引き起こし、経済を動かす力にもなります。

  2. 従業員にとって身近な問題にする。

    ブランディングやサステナビリティの戦略は、社内で実行されていなければ前へ進めません。顧客体験と従業員体験にギャップがあると、企業の取り組みは挫折してしまいます。サステナビリティをリアルな課題と意識するには、具体的かつ戦略的な取り組みを通じて従業員の知識を高め、サステナビリティの価値が単独で尊重されるような社内文化を作り上げる必要があります。

  3. 国境や文化の差を超えて語る。

    世界のどこで事業を展開していようと、どのような業種であろうと、地球環境を守るという課題は同じ。指針となる目的を定義し、従業員を巻き込み、現状を知るためのエビデンスを広く共有しましょう。ビジネス、ブランド、コミュニケーション、サステナビリティのリーダーたちが、本気でサステナビリティと気候変動の問題に取り組むための重要な教訓です。

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