顧客体験を通じて歴史溢れるブランドを成長に導く
ダニエル・ポップルトン氏
ウィッタード・オブ・チェルシー 国際ディレクター
「Eat Take-Away」シリーズでは、各国で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーにインタビューを行い、今後のビジョンや課題などについて伺います。1日の流れから、近年急激な変化を遂げているブランド体験と顧客体験の分野における経験談、アドバイスなど、盛り沢山の内容でお届けします。記事の最後では、インタビューから得た3つの重要な学びをリストアップ。お見逃しなく。
Vol. 3では、Eat Creativeの事業成長責任者、ロバート・コステロがイギリスの老舗紅茶ブランド、ウィッタード・オブ・チェルシーの国際ディレクターで香港在住のダニエル・ポップルトン氏と対談しました。
(インタビューは一部内容を編集しています。)
ロバート・コステロ:まずは、普段の役割や、1日の流れを教えていただけますか。
ダニエル・ポップルトン:国際ディレクターの役割として、主にイギリス国外における事業を管理しているほか、イギリス国内における卸売業など、本国での事業にも関わっています。ウィッタード・オブ・チェルシーは約35ヶ国で取引を行っており、その多くが、種類の異なるパートナーシップという形をとっています。
RC:ブランドの成長に向けて、注目しているエリアはどこですか。
DP:フランチャイズ事業の管理を行う際、課題となることのひとつが、「ブランドを一貫して表現できるかどうか」です。ローカルパートナーと連携しながら、ブランド観を一貫して届けられているか目を配ると同時に、そのエリアやマーケットにより適合する形でブランドコンセプトを表現することは、終わりのない作業です。各エリアの店舗を訪れた時、本国と同じレベルの顧客体験とサービスを届けられていることが理想です。商品の展示方法こそ違えど、それぞれのパートナー企業がウィッタード・オブ・チェルシーのブランド体験を正しく再現できているか確認することが重要です。
商品の展示方法こそ違えど、それぞれのパートナー企業がウィッタード・オブ・チェルシーのブランド体験を正しく再現できているか確認することが重要です。
RC:ブランドの成長に向けて、注目しているエリアはどこですか。
DP:国際部門を管理する際は、「手当り次第」を避けることが重要です。ウィッタード・オブ・チェルシーでは、ビジネスの半分以上を占める9〜10社の取引先を持っており、アジア太平洋エリアでは、台湾、韓国、日本、中国本土にフォーカスしています。そのほかのエリアでは、多くのイギリス企業と提携しています。
RC:アジア太平洋エリアで展開するに当たって、商品ラインナップ、ブランド体験やそのほかのブランド要素に変更点は見られますか。
DP:ひとつのエリア内におけるすべての顧客を一緒くたにして、「顧客が求めているのはこれだ」と言うことはできません。各マーケットに向けて、より入念な戦略を立てなければならないのです。イギリスを除くと、当ブランドの最大のマーケットは中国本土です。中国では、ウィッタード・オブ・チェルシーが自ら事業を展開し、ブランドを運営しています。今のところ、T-MallやJD.comなどのプラットフォームを通じてのオンライン販売にとどまっていますが、卸売の開始に向けて取り組みを進めています。
中国において当ブランドの強みとなっているのは、商品の多種多様なラインナップです。とくに人気を集めているのがギフト用の商品です。マーケットごとに商品を開発し、大きな成功を収めています。例えば、旧正月や中秋節には、特別にデザインした茶筒に入った桃ウーロンを販売しています。このほかには、ホットチョコレートも売れ筋のひとつです。ウィッタード・オブ・チェルシーでは、15種類のホットチョコレートを取り揃えています。近年、中国では、糖分の多い商品からヘルシーな飲み物へ移行する傾向が見られます。そのため、とくにカカオ70%やカカオ100%の商品が好調を維持しています。
幅広いラインナップは、エリアごとの需要や傾向に応じた商品展開を可能にします。ウィッタード・オブ・チェルシーの店舗体験の強みは、各商品の試飲ができることです。私は2020年、コロナ禍の真っ只中に入社したので、イギリスの店舗を実際に訪れられるようになった時には入社から2年が経っていましたが、これまで知らなかったブランドの一面を見ることができました。昨年の夏、初めて店舗視察を行ったのですが、実店舗における試飲体験がいかに重要か、肌で感じることができました。すべての店舗で導入することはむずかしいですが、顧客に新たな体験を届けられる、重要な取り組みだと思っています。
幅広いラインナップは、エリアごとの需要や傾向に応じた商品展開を可能にします。
RC:ブランドを差別化し成長に導く上で行っている、ブランド体験やコミュニケーションに関する取り組みはなんですか。
DP:ウィッタード・オブ・チェルシーのブランド観を五感すべてで感じられるという点で、実店舗を訪れることに勝る体験はないでしょうね。店舗の多くには「Wウォール」と呼ばれるディスプレイを設置しており、そこで全種類の茶葉を販売しています。大型店舗では、50種類以上の茶葉を取り揃えており、香りや味を楽しんでいただけます。店舗で楽しい時間を過ごしていただけるよう、多くの取り組みを行っています。実際に見て、嗅いで、味わっていただければ、納得して商品をお買い上げいただけると思います。
卸売が主流となっているマーケットでは実店舗のような体験はむずかしいですが、パートナー企業や小売店と協働して、試飲やデモンストレーション、イベントなどの取り組みを行っています。また、ホットチョコレートに関しては、料理作りに利用可能な点が 、ソーシャルメディアなどで取り上げられる際、ポジティブな要素となっています。顧客が自ら発信してくれるコンテンツに勝るものはないですからね。ブランドが自らの商品が素晴らしいと伝えるのと、顧客が商品がいかに優れているか伝えてくれるのでは、全く違います。画像やレシピは、ブランドメッセージの普及に貢献してくれます。
顧客が自ら発信してくれるコンテンツに勝るものはないですからね。ブランドが自らの商品が素晴らしいと伝えるのと、顧客が商品がいかに優れているか伝えてくれるのでは、全く違います。
RC:2023年、楽しみにしていることはなんですか。
DP:グローバルに見ると、夏にかけて観光客数がどう変化していくかが重要になります。イギリスでの事業に関して言えば、ロンドンの主要な店舗には、多くの観光客が訪れますから。また、クリスマスにかけてロンドンを訪れる観光客がふえるので、これもポジティブな要素です。一方、中国は常に変化している刺激的なマーケットですが、同時に多くの課題を内包しているとも言えます。法令制度の変更が珍しくなく、影響を最小限に抑えるべく適応することが求められます。とはいえ、ブランドを定着することができれば、これ以上ないマーケットと言えるでしょうね。
日本についても、同じようなことが言えます。当ブランドは長年にわたり日本で商品を展開していますが、改善点は少なくないと思っています。中国は、イギリス国外では2番目に大きなマーケットで、2023年、コロナ禍による行動制限が緩和に向かうなか、どのように変化していくか注視しています。ここ数年の社会的混乱を鑑みると、明るい兆しが見えていますが、これに応えられるよう取り組みを進めなければなりません。
Eat Take-Away
進出先を入念に選ぶ:国際的な成長を目論むブランドの多くが、必要以上に速く、多くのマーケットに進出することで、事業の継続をむずかしくしています。ブランドが注力するマーケットを入念に選ぶことで、より効果的に投資を行えるだけでなく、各マーケットに最適な形でブランドの運営やブランド体験の創出ができるようになります。また、ブランドを確立するためには、マーケットの調査を行い、当該国のターゲット層のニーズや傾向を理解することが不可欠です。
ブランドを拡張する:核となるブランド観を維持しながら、新たなブランド体験や商品分野などを通じてブランドを拡張することは、長期的な成長につながります。ブランドパートナーシップや異業種の企業とのコラボレーション、商品の新しい楽しみ方の紹介などを通じて、ターゲットとなる顧客層に向けた新たな接点を創出できます。とはいえ、そのためにはブランド観を明確にし、新たな取り組みがそこから乖離していないことを確認しなければなりません。ブランドの理念や主張と関係のない分野に進出することは、ブランドの希薄化や顧客の混乱につながるリスクが高いと言えるでしょう。
体験をパーソナライズする:顧客が自ら発信するコンテンツや、ブランドが個々のユーザーのニーズを踏まえて発信するコンテンツなどを通じて顧客との関係を深めることは、ブランドロイヤルティの向上やリピーターの創出につながります。これにより、人びとは単なる顧客から、ターゲット層にブランドを広めてくれるブランドアンバサダーへと変貌を遂げます。大量配信を行っているだけでは、顧客との関係深化につながらず、エンゲージメントは低下していく一方でしょう。顧客をよく知ることは、ブランディングにおいて不可欠です。
この記事はお役に立ちましたか?もしご関心を寄せて頂けたなら是非こちらから無料購読にご登録ください。これからも定期的に配信予定の当社マーケティング関連コンテンツをいち早くお届けします。