信頼こそが変革の原動力

ネリー・チャン Google香港カスタマーソリューションズ責任者

2025. 11. 20

マーシャル・トーリー / 事業成長マネージャー

「Eat Takeaway」は、世界で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーに直近の抱負と課題を教えてもらうシリーズ。インタビューから得られた学びを「Takeaway」として読者のみなさまにお持ち帰りいただきます。 

今回は、香港でGoogleのカスタマーソリューションズを統括するネリー・チャン氏が登場。サウスチャイナ・モーニング・ポスト(南華早報)とLinkedInでアナログからデジタルへの変革を経験し、Google入社後は地元香港の企業の成長を後押しするリーダーです。テクノロジーの変遷と並走してきた30年を振り返りながら、現代の企業がAI時代を乗り切る条件について考えます。

The 3 Key Quotes:

1. クライアントから真っ先に連絡をもらえるのは、長期的な信頼があるから。 

2. AIを活用するには、失敗を恐れずに自分の手を動かすこと。 

3. 好奇心と勇気を失わない企業だけが、他社との差別化を通して成功できます。 

アナログとデジタルのコミュニケーションから、現職にたどり着いた経緯は?

香港屈指の英字新聞であるサウスチャイナ・モーニング・ポスト(南華早報)に入社したのは、今から30年以上前のこと。当時はすべてがアナログでした。輪転機で記事と広告を印刷し、レイアウトもすべてが手作業。最終校正を徹夜で印刷所に届けるような毎日です。しかしウェブサイトが登場して、完全に常識が変わりました。紙とインクから解き放たれ、世界中で読者が獲得できるという考えに魅了されたものです。

テクノロジーが、コミュニケーションを再定義する変革の時代です。その方法について深く理解したいという思いから、デジタルの世界へと自然に導かれました。テクノロジーの進化がもたらす未知の可能性に賭けてみたい。そんな好奇心が、すべての選択を導いてきました。

Googleに転職された理由と現在の担当業務は

それまでも20年以上にわたって香港で働いていましたが、地元香港のために働く時間が少なかったと気づき始めました。地域コミュニティに貢献し、現地の企業を成長させるお手伝いがしたい。そんな思いで、現職に辿り着きました。メディア業界とは異なる分野で新たな挑戦をしたい気持ちと、香港市場にじっくり専念したいという希望を満たしてくれる仕事が、Googleのカスタマーソリューションズでした。

私が率いるチームの任務は、GoogleのAIエコシステム(検索、マップ、YouTube、AIツール)によってあらゆる規模の企業を成長させること。現地の言語で直接クライアントと対話し、各社の規模や目標に見合ったデジタル戦略の設計を支援しています。

地域コミュニティに貢献し、現地の企業を成長させるお手伝いがしたい。

パートナーシップで成長を支援できた具体例は?

私たちの原則は、クライアントへの支援を何よりも優先すること。しかし当然ながら、対象企業によって支援の内容は異なってきます。例えば新型コロナウイルスが流行したときも、企業によってさまざまな課題が浮上しました。業務のオンライン化が必要な企業もあれば、根本的な事業転換(デリバリーの導入、マーケティング戦略の見直し、研修のオンライン化など)を目指す企業もあります。急成長中の企業には、その成長を止めないようにサステナブルな管理手法を提案しました。

コロナ禍を克服するため、企業同士をつなぐ取り組みも実践しました。とにかく香港のビジネスコミュニティのレジリエンスを支えるようという目的ができたのです。このような経験から、もっとも貴重なビジネスの財産は信頼なのだと再確認しました。強い支援の意思を理解してもらえれば、しっかりと相手の記憶にも残ります。そのようにして築いた信頼関係は、もっとも強固なパートナーシップへと発展していくのです。

獲得した信頼を維持していく秘訣は?

クライアントが新たな計画を立てるとき、真っ先に連絡をもらえるのは長期的な信頼があるからです。そのような関係を目指すなら、いつも顧客の長期的な成功を最優先に考えることが不可欠。ていねいに対話を重ねることで、その企業の実力、人材の特徴、デジタルの成熟度などを理解しておきます。シンプルな対策もあれば、複雑なソリューションもあります。ただしそのソリューションで、クライアントのビジネスを強化できなければ意味がありません。この判断基準を常に意識しながら、自己検証を繰り返します。

近年のデジタル革新は、香港の中小企業をどのように変えていますか?

コロナ禍によって、あらゆる企業がEC、物流、デジタル決済の変革を進めました。一気に大量の学びも必要になりましたが、同時に創造性も刺激されました。店主がスマートフォンでライブ配信販売を始めたり、レストランが1週間でオンライン注文システムを構築したり。伝統的な家族経営企業が、SNSマーケティングに乗り出す様子も頻繁に目にしました。

今では多くの香港企業に、真のイノベーションへの意欲が生まれています。デジタルツールが新たな収益源を開拓し、予想外の顧客層へリーチできる可能性さえ実感させたのです。「デジタルは本当に必要なのか?」という疑念から「もっとデジタルにできることはないのか?」という姿勢に変化しました。

これまでのあらゆる変革がそうだったように、試行し、学習し、適応するというプロセスを辿ってみましょう。

AIの活用をためらってる中小企業へのアドバイスは?

小さな一歩から始めること。すでにお使いのツールに搭載されているAI機能を使ってみましょう。商品の説明文を作成したり、ビジュアル画像を生成したり、顧客フィードバックを分析したりする仕事をAIに頼んでみてください。まずはAIがどんな技術なのか理解し、自社にどのような可能性をもたらすのかを把握するためです。

実際にAIの有用性を体験すれば、さらに的確な質問ができようになり、それが賢明な判断にもつながります。失敗を恐れずに、自分の手を動かすことこれまでのあらゆる変革がそうだったように、試行し、学習し、適応するというプロセスを辿ってみましょう。

香港のビジネス界に期待する変化は

香港はさまざまな課題に直面してきましたが、常にレジリエンスの高い都市であり続けています。多くの香港企業は、可能性さえ見出れば素早く行動して結果を出します。この姿勢がある限り、香港の明るい将来は確信できるでしょう。これはGoogleのようなテクノロジー企業の前進にあわせて、香港全体の協働を進化させる原動力になります。各企業には実験精神を奨励し、人材への投資を続け、学び続けることをお勧めしています。デジタルツールは、AIを中心に進化し続けていくでしょう。好奇心と勇気を失わない企業だけが、他社との差別化を通して成功できます。

企業の枠を越え、さまざまな業界団体の要職を務められている理由は?

そこに貢献する喜びがあるからです。社外でのさまざまな活動は、現実世界のフィードバックループをもたらしてくれます。このループは、香港全体での戦略を練るのに不可欠なもの。私たちGoogleのチームが、地域社会に根ざした効果的なパートナーであり続けることを保証してくれるからです。経営層の洞察や、国際的な視点をチームに持ち帰ることもできます。そして何よりも強い動機は、自分が暮らしてきた大切な町に貢献できるやりがいです。

Eat Take-Away

  1. 真摯なサポートで信頼を獲得 。

    最高のパートナーシップは、シンプルな共感から始まります。真摯なサポートによって信頼を築けば、ビジネスの成長は後から付いてきます。

  2. 専門知識よりも好奇心。

    新しい技術について、すべてを知っておく必要はありません。まずは自分で試しながら、新しい世界に慣れることが大切。好奇心は最高のスタートです。

  3. 地域との接点がビジネスを強化。

    デジタルの世界でも、地域コミュニティへの関与は賢明な将来への投資になります。多分野の仲間たちとつながることで、成長の波動を共有しましょう。

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