お得な再生可能エネルギーで未来へ
中村 肇 オクトパスエナジー日本法人代表取締役社長
「Eat Takeaway」は、世界で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーに直近の抱負と課題を教えてもらうシリーズ。インタビューから得られた学びを「Takeaway」として読者のみなさまにお持ち帰りいただきます。

今回登場するのは、オクトパスエナジーの日本法人を率いる中村肇氏。英国で驚異的な急成長を遂げている理由や、日本で再生可能エネルギーを普及させる戦略についてうかがいました。
The 3 Key Quotes:
1. 小さなアクションでも、みんなで一斉にやればデマンドを大きく動かせます。
2. 口コミや紹介で獲得したお客さまの満足が、着実な成長につながっています。
3. 電力の安さだけでなく、なぜこの値段で提供できるのかをわかりやすくお伝えします。
オクトパスエナジーはどんな会社?
再生可能エネルギーに特化した電力の小売会社です。英国で2016年に事業を開始し、9年で国内730万世帯以上と契約する英国最大のエネルギーサプライヤーに成長しました。先端テクノロジーを駆使した顧客サービスで、電力供給にさまざまな革新をもたらしています。
グループとしては世界18か国で再エネの普及を推進し、革新的なサービスや親しみやすいお客さま対応を理念に掲げながら事業を展開してきました。日本では2021年2月に東京ガスとの合弁企業を設立。私は日本における電力小売自由化(2016年)を東京ガスの社員として経験し、その知見を活かしてオクトパスエナジーの立ち上げに関わっています。

英国で急成長した理由は?
スタートアップ企業としてのオクトパスエナジーは、革新的な事業を可能にするプラットフォームの開発に大きな特徴があります。独自開発のシステム「クラーケン」は、いまや世界中で6,000万件以上の顧客アカウントをサポートするプラットフォームに成長しました。このクラーケンによるスマートなユーザー体験が、オクトパスエナジーを成長させる原動力になっています。
創業して3年ほどは小さなシェアに留まっていましたが、2019年頃からの急成長で英国第1位の電力会社に。昨年だけで約100万人のお客さまが他社から乗り換えています。創業チームは、常にカスタマーセントリックなサービスを心がけてきました。業界標準に比べて解約率が1〜2%と極めて低く、外部の顧客満足度調査でも常に高評価を維持しています。口コミや紹介で獲得したお客さまの満足が、着実な成長につながっている状態です。
再生可能エネルギーを安価に供給する方法は?
お客さまの立場で考えると、電気はコンセントに繋いでストレスなく使えるのが当たり前。でも電気は貯めておけないので、みんなが使い始める瞬間に必要量を発電していなければなりません。この「同時同量」をコントロールするのが、電力を安定供給する必須要件となります。
しかし風力、太陽光、地熱、水力などの再生可能エネルギーは、化石燃料のように発電側で供給量を制御できません。過剰需要による停電を防ぐには、デマンド側をシフトさせる必要があります。その方策のひとつが、こまめなキャンペーン。たとえば再生可能エネルギーの発電量が多い時間帯に、大きく値下げして電気を使ってもらいます。アプリに「今日は昼間の電気が安いよ!」といった通知が届くイメージです。このような需給調整をダイナミックに実行できるのが、自社開発のプラットフォームを擁するオクトパスエナジーの強みです。
需給調整の実例は?
英国は風力発電所が中心なので、夜間の発電を利用しなければ大量の無駄が発生します。この課題を解消したのが、「インテリジェント オクトパス・ゴー」のような電気自動車ユーザー向けのサービス。夜間の充電をオクトパスエナジーが制御することで、もっとも電気が安い時間帯に自動充電できる仕組みです。通常の4分の1程度の電気代で済むため、ガソリン車よりも燃費がよくなりました。
日本では太陽光発電が増えており、好天の日中だけ電気が余るという課題があります。そこでオール電化住宅のお客さまを対象に、昼間からヒートポンプでお風呂のお湯を温めておくような工夫を促しています。個々のニーズに合わせながら安価な再生可能エネルギーを提供するには、大量の電力供給を瞬時に制御できる仕組みが必要。その点で、クラーケンの先進的なテクノロジーが役に立つのです。

各国ごとの課題に違いは?
英国の風力発電所は北海の沖合に集中しているため、需要の多いイングランド南部に送電する技術も典型的な課題のひとつです。また米国テキサス州ヒューストンなどでは、電気の需要が急増する夕方から夜にかけて送電線の渋滞が起こります。その対策として、住宅内の室温設定を変えることで負荷を落とすような試みを進めてきました。小さなアクションでも、みんなで一斉にやればデマンドを大きく動かせます。
日本は太陽光発電が中心ですが、ご家庭で電気を使うピークは夜と朝。この時間帯のずれに対処することや、需要地の大都市圏まで効率的に送電する技術が課題になっています。日本の事情にあわせた「ソーラーオクトパス」「オール電化オクトパス」「EVオクトパス」などのお得なプランで、需給を調整しながら実質再生可能エネルギー100%の電気をお届けしています。
個性的なコミュニケーションの狙いは?
ピンクのタコ「コンスタンティン」(公式キャラクター)を用いたキャッチーな広告で、ワクワクや楽しさ、誠実さをシンプルに表現しています。お客さまに新しい体験と価値を提供し、低価格で環境にやさしい電力会社であると訴えるのも大事なメッセージです。英国ではSNSを通したお友達紹介などのリファラル系キャンペーンを多用してきました。ここで重要になるのは、「Which?」や「Trustpilot」の消費者調査で高評価を獲得していることです。
「聞き慣れない電力会社だけど、値段が安いし、評判もいいみたいだから試しに使ってみよう」と乗り換えたお客さまが、やがて「今までの電力会社よっぽどいいかも」と評価してくださいます。そのような評判がサイバー空間でじわじわと広がれば、新規顧客も獲得しやすくなります。従来の電力会社はこのようなネット上の取り組みに力を入れてこなかったので、うまく差別化できたという側面もあるでしょう。

安価であることを第一に訴えている理由は?
サステナブルな再生可能エネルギーの供給は、オクトパスエナジーの大きなミッションです。しかし一般消費者の関心を調査をすると、やはり現実には価格の安さが何よりも重要であることがわかります。これは英国と日本を含む世界共通の前提です。
特に2年ほど前から世界中でエネルギーが高騰していますが、英国の低所得者にとっては冬に暖房が止まると命に関わる大問題になります。そこで環境保護などの理想よりも、まずは他社より安価に電力が供給できるというメリットを優先的に訴えました。「Cheaper, Greener Energy」というメッセージにも、そのような優先順位が表現されています。

コンシューマーブランドを成功させる鍵は?
企業の一方的な主張が、そのままブランディングに繋がる訳ではありません。コンシューマーブランドにとって大事な要素は2つ。ひとつはお客さまが実際に好ましいユーザー体験を得ること。もうひとつは、その体験を誰かに広めてくれることです。お客さまの「これ、いいかも」という印象が、消費者層に広がることでブランド価値が高まっていきます。
このユーザー体験で特に重要なのは、フェアな価格設定です。またそのフェアネスを担保するのは、情報の透明性です。電力の安さだけでなく、なぜこの値段で提供できるのかをわかりやすくお伝えします。
既存の電力会社やガス会社には、販売者というよりもインフラ供給者としての意識が根強くありました。「価格に疑問があれば約款を読め」といった対応は、世界中のエネルギー会社にありがちな特徴です。その点でオクトパスエナジーは、さまざまな問い合わせにコンシェルジュのような即時対応ができます。スマートなテクノロジーと顧客中心の考え方が、高評価に繋がっているのだと思います。
日本市場での目標は?
世界中で化石燃料の価格が上昇し、インフレを引き起こしています。化石燃料の輸入国は、おそらく今後もますます電気代が高くなってきます。こんな時こそ、少しでも安価な国産の電気を皆さんに届けられるようにしたい。そのような考えから、日本ではお客さまが実質無料で太陽光発電機を屋根に設置できるプランもご用意しました。
産業革命以降、世界の人口は急激に増加しました。その原動力は、やはり圧倒的なエネルギー供給と食料生産性です。化石燃料に依存せず人々の生活を維持していくには、再生可能エネルギーを無駄なく上手に使いこなす技術が鍵になります。
コロナ禍に立ち上がった日本のオクトパスエナジーは、現在は約37万世帯(沖縄県を除く全国)に電力を供給し、事業拡大を加速しています。今後も先進的なメニューを提案し、楽しくてワクワクする使い勝手のいいサービスを提供してまいります。リーズナブルでグリーンな電力会社として、一人でも多くのお客さまに使っていただきたいと願っています。
Eat Take-Away
最重要なニーズに絞って自己紹介
サステナビリティやテクノロジーより、オクトパスエナジーが強く訴えているのは「家計にやさしい電力」というシンプルなメッセージ。もっとも重要なニーズで顧客を開拓し、その後のユーザー体験で他のメリットを実感してもらいます。
客観的な評価で競争を抜け出せ
オクトパスエナジーの急成長を支えてきたのは、圧倒的に低いユーザーの離脱率。カスタマーセントリックな方針を徹底し、客観的な消費者レビューを味方に付けることで、新規顧客の獲得も容易になります。
密なコミュニケーションで信頼を勝ち取れ
デジタルチャネルを駆使した密なコミュニケーションがオクトパスエナジーの強み。料金プランの更新やキャンペーン情報を迅速に提供し、リアルタイムでつながる親しみやすいサポート体制で顧客との信頼関係が深まります。
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