経済産業省の統計によると、日本のコンテンツ産業は2023年に海外で5.8兆円を売り上げました。これは半導体や鉄鋼の輸出額を上回る数字です。 

怪獣映画『ゴジラ』やアニメ『呪術廻戦』のシリーズを制作する東宝は、今後３年間に1,200億円を投じてグローバル化を加速させます。日本の映画やアニメに対する国際的な需要を見込み、野心的な計画を今年4月に発表しました。 

さらに今年7月の株式市場では、任天堂、ソニー、サンリオ（ハローキティ）などのエンターテイメントおよびデジタルコンテンツ関連株が、大手自動車メーカー各社を上回るパフォーマンスを見せています。  

日本の観光収支（インバウンド観光客の国内消費額からアウトバウンド観光客の海外消費額を引いた値）も急激に伸びており、昨年度は黒字が58%も増加しました。特許使用料の貿易黒字を上回ったのは初めてのことです。これは多くの海外観光客が日本を訪れ、多額の消費をおこなった結果です。 

 コンテンツ産業のアワードや興行収入ランキングでも、日本の作品が注目されています。特撮映画『ゴジラ-1.0』は2024年のアカデミー賞で視覚効果賞を受賞し、Netflixの実写版『ONE PIECE』は世界的なヒットになりました。また日米合作のコンピューターアニメ映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は全世界の興行収入が13億ドルを超え、映画『バービー』に次ぐ2023年の年間最高興行収入を記録しています。 

日本のソフトパワーは、ようやく国際市場で実力発揮し始めています。日本の漫画やアニメが好きな外国人には、なぜこれほど時間がかかったのか疑問に感じる人もいるはず。日本のコンテンツ産業は内需が主体で、海外への発信が盛んではなかった歴史もあります。近年の躍進には、国外からの働きかけとコンテンツへのアクセス改善が大きく関与しています。 映像ストリーミングの分野では、Netflixが日本の映画やオリジナルアニメの制作に巨額を投資してきました。完成した作品は、吹き替えや字幕付きで世界中の視聴者に届けられます。これは日本のスタジオ主導で成し遂げられなかった新しい現象です。同様の流れにDisney+やYouTubeも追随し、ニッチなプラットフォームだったCrunchyrollも参戦しています。 

人口動態の変化も、コンテンツ産業の元気づけている要因のひとつです。ポケモン、ドラゴンボール、スタジオジブリなどの古典的なコンテンツに親しんできたミレニアル世代が大人の消費者となり、懐かしいアニメ作品だけでなく『鬼滅の刃』や『SPY×FAMILY』などの新作の需要を後押ししています。 

そしてやはり日本のゲーム産業も、引き続き世界をリードしています。今年発売された「Nintendo Switch 2」の販売台数は、前モデルの2倍に達しました。この熱気は、しばらく冷めることがないでしょう。 

日本のお家芸である自動車産業は、中国メーカーなどとの熾烈な競争にさらされ、米国の関税引き上げからも影響を受けています。それとは対照的に、日本のコンテンツや文化的IPに強力なライバルはいません。マンガやアニメの人気に陰りは見えず、混乱したリアルな世界からの逃避先としてますます重要な役割を担っています。 

このような傾向から、日本の知的財産が経済を活性化する未来も見えてきます。この変革は、苦痛を伴うかもしれません。ちょうど1980年代の英国が、サッチャー首相の下で製造業から国際的なサービス業中心の経済に転換した時期を思い起こします。英国と違うのは、日本の変革が意図的になされているわけではなく、製造業の停滞を契機とした惰性によって進んでいるということです。  

文化IPが主導する経済を最大限に活用するには、市場の勢いに乗るだけでは不十分です。知的財産保護の法制化、人材への投資、海外企業との提携など、迅速かつ柔軟な対応が求められます。日本の企業文化が、このような大変化をやってのけられるかが今後の焦点です。 

その点について、Eat Creativeは楽観的な見通しを持っています。当社のプロジェクトには、いつも日本と海外のステークホルダーが深く関わっています。日本の強みを活かしながら、競争力と国際性を伸ばそうとする努力がさまざまな分野で顕著に感じられます。 

日本がかつてのような経済大国の地位を取り戻すことはないかもしれません。しかし独創的な知的財産というソフトパワーを通じて、世界中の人々のイマジネーションを刺激する未来ははっきりと見えています。