変化を起こすとき

2025. 06. 20

スティーブ・マーティン / Eat Creative共同創業者

外務省によると、日本人のパスポート保有率は約17%です。米国人(約50%)や英国人(約77%)に比べても、その低さは際立っています。日本も英国も同じ島国なのに、なぜこれほど大きな違いがあるのでしょうか。 

先進国の中でも、日本は同質性の高い国として知られてきました。国際的な価値観を積極的に受け入れるより、国内での評価を気にする内向きの傾向があります。現状を変えようと躍起になる人は少なく、社会のあらゆる分野で集団的思考や前例踏襲が優先されます。これに近年のコロナ禍や円安の影響も加わって、若年層を中心に海外渡航への意欲が低下しているのが気になります。 

しかし2025年に入ってから、ここ数十年にはなかったほどに国外の動向を意識せざるを得ない状況が続いています。円安、インフレ、主要産業への関税などの脅威に対し、日本全体が対応に苦慮しています。少数与党の政府に対する批判や圧力は高まり、今後の選挙の動向が注目されます。 

世界の男女平等ランキングで、日本は第118 位という定位置をキープ。主要国G7では、同性婚を認めていない唯一の国。

しかし仮に政権交代が起きたとして、新しい日本政府は大きな方針転換ができるのでしょうか。地方選挙でも新しい政党や候補者が乱立していますが、全国的に見れば依然として自民党が優勢です。政治家には高齢の日本人男性が多く、高齢化した有権者向けの政策で議席を維持しています。 

世界の男女平等ランキングで、日本は第118 位という定位置をキープしています。主要国G7では、同性婚を認めていない唯一の国になりました。選択的夫婦別姓の議論も足踏み状態で進展が見られません。つまるところ、変化のスピードが恐ろしく遅いのです。

変われない日本の体質は、ビジネスの問題にもつながっています。多くの業界で、日本企業は新しいテクノロジーやグローバルな課題への対応で遅れをとっています。たとえば気候変動に関する議論もそのひとつ。主力の自動車産業は、いわゆる新エネ車の分野で他国の後塵を拝しています。日産は2024 年度の純損失が 6,700 億円以上に達し、勢いを増す中国メーカーと好対照です。 

またAI関連のテクノロジー分野でも、イノベーションとリーダーシップは依然として米国と中国が主役です。チップメーカーのRapidus株式会社をはじめとする注目企業はあるものの、まだまだ脇役といった印象は否めません。 

その一方で、日本はかつてないほどの観光ブームを迎えています。豊かな文化、歴史、和食などの魅力が、円安と相まって日本を世界屈指の旅行先に押し上げました。観光業の収支の黒字は2年連続で最大となりました。 

ホスピタリティ業界は活況を呈しています。海外からの訪日旅行者が増え、割安な不動産価格や低金利なども手伝って観光業界に変革のチャンスをもたらしました。グローバルなホテルチェーンや資産運用会社が次々と参入し、この四半期だけで国内不動産への海外投資が4倍近くに増加しています。 

日本はかつてないほどの観光ブームを迎えている。観光業の収支が黒字は2年連続で最大。

変革の波は、他のさまざまな分野にも及んでいます。物言う株主 (アクティビスト投資家)が、伝統的な日本企業に近代化を迫るケースが増えてきました。企業間の株式持ち合いが次々に解体され、2024年には自社株買いの総額が18兆円を突破。前年からほぼ倍増という記録的な現象です。 

コンテンツ産業にも光明が見えます。新しいNetflixなどのプラットフォームに刺激され、マンガ、アニメ、デザインなどの知的財産に脚光が当たり始めました。日本のコンテンツが世界市場に進出できるという可能性にようやく目覚め、収益化に向けた取り組みが加速しています。アニメの海外売上高だけを見ても、2012年の2兆円から10年間で 15 兆円にまで成長しました。最近は「Nintendo Switch 2」の争奪戦が話題ですが、初代モデルをはるかに上回るペースで記録的な販売台数を達成しています。 

この2025年に、Eat Creativeは創業25周年を迎えます。日本も四半世紀に12人の首相が登場しましたが、創業当時とほとんど変わっていないこともあります。それでも今年は、どこかこれまでと違う印象を感じています。おそらく日本は転換点に立っているのです。これから数年間で下される判断が、世界における日本の役割を決めていきます。その影響は数十年先にも及ぶことになるでしょう。 

変化の多くが、外圧によって生じる。そして日本が世界で活躍すれば、さまざまな良い影響を世界にもたらす。

そこで私たちも社歴の長さだけを自画自賛するのではなく、多文化環境の中で培ってきた経験をフルに活かそうと考えました。今日の日本が抱えるさまざまな問題や将来のチャンスについて、一連のエッセイシリーズを公開します。国籍も年齢もまちまちな執筆陣が、それぞれの視点でオピニオンをまとめます。 

日本の変化を語るとき、さまざまなケースに共通するポイントがあります。それは変化の多くが、外圧によって生じること。そして日本が世界で活躍すれば、さまざまな良い影響を世界にもたらすということ。ポジティブな変化を起こすには、あらゆるレベルでの効果的なコミュニケーションと連携が必要になります。私たちEat Creativeも、日本の力強い変化をサポートすべく事業を続けてまいります。