古くて新しい海運業界の最前線
ディクソン・チン ウォーレム 船舶代理店事業部マネージングディレクター
「Eat Takeaway」は、世界で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーに直近の抱負と課題を教えてもらうシリーズ。インタビューから得られた学びを「Takeaway」として読者のみなさまにお持ち帰りいただきます。
今回登場するのは、海運ソリューション大手のウォーレム(香港本社)で船舶代理店業務を統括するディクソン・チン氏。船主、港湾、現地サプライヤーをつなぐ要として、接岸や貨物作業から乗組員の交代や経費支払までの多様な業務を管理しています。アジア有数の海運パートナーとして、ウォーレムは120年以上にわたって世界貿易を支えてきました。グローバルな人類の営みに直結するインフラ産業を担いながら、伝統と革新を両立させる秘訣についてうかがいます。
The 3 Key Quotes:
1. 求める成果について率直に話し合い、着実に達成することで信頼は構築できます。
2. デジタル化は、業界の脱炭素化目標を達成する力にもなります。
3. 世界貿易における物資の80%以上が、海運業の力で輸送されています。
ウォーレムはどんな会社?
船舶の運航や港湾業務を代行するウォーレムには長い歴史があり、世界の海運業界で高く評価されています。私は主にクルーズ部門を統括してきましたが、近年になって会社自体が大幅に業務の範囲を拡大しました。最近では、機械、鋼材、建材などの大型貨物や非コンテナ貨物を扱うバラ積み貨物部門も新たに立ち上げて成長させています。海運業界における120年以上の伝統がなければ、これほど短期間での成果は得られなかったでしょう。
海運業界が近年に経験した変化や、逆に何十年も変わっていないことは?
少なくとも港湾代理店の業務では、今でも実際に手を動かす仕事がたくさんあります。近年の海運業界はデジタル化への移行も進んできましたが、船舶代理店業務には今でも紙とペンが必要なプロセスが残っています。場所によっては、まだファックスが現役で使われているほどです。
異文化理解が必要な仕事で、多様な相手と信頼関係を構築する秘訣は?
ウォーレムは常に船主の課題を理解して、ビジネスが計画通り実行されるように努めています。海上の安全を絶対的な優先事項とし、事故ゼロへの取り組みも続けてきました。そのような実績が企業の評判を高め、優秀な人材の獲得にも役立っています。従業員の定着率は90%に及び、勤続40年以上のベテラン社員もいるほどです。
船舶代理店業務で大切なのは、財務的な安定と関係者からの評判です。船主だけでなく、港湾管理者や民間サプライヤーなどのパートナー企業からも信頼していただかなければなりません。船舶の運用経費は寄港地あたり約20万米ドル(約3000万円)にも及ぶこともあり、業務の管理を預かるには関係者全員からの多大な信頼が必要となります。
顧客が求める成果について率直に話し合い、着実に達成することで信頼は構築できます。訓練を積んだ人材の維持こそが、顧客の事業を成功に導く条件。豊富な経験と市場の知識があり、安全運航を重視するウォーレムの人的資源が企業の信頼を土台から高めてくれます。
ウォーレムは「世界の未来は、依然として人間が担う」ことも信条としている。
異文化理解が必要な仕事で、多様な相手と信頼関係を構築する秘訣は?
ウォーレムは常に船主の課題を理解して、ビジネスが計画通り実行されるように努めています。海上の安全を絶対的な優先事項とし、事故ゼロへの取り組みも続けてきました。そのような実績が企業の評判を高め、優秀な人材の獲得にも役立っています。従業員の定着率は90%に及び、勤続40年以上のベテラン社員もいるほどです。
船舶代理店業務で大切なのは、財務的な安定と関係者からの評判です。船主だけでなく、港湾管理者や民間サプライヤーなどのパートナー企業からも信頼していただかなければなりません。船舶の運用経費は寄港地あたり約20万米ドル(約3000万円)にも及ぶこともあり、業務の管理を預かるには関係者全員からの多大な信頼が必要となります。
顧客が求める成果について率直に話し合い、着実に達成することで信頼は構築できます。訓練を積んだ人材の維持こそが、顧客の事業を成功に導く条件。豊富な経験と市場の知識があり、安全運航を重視するウォーレムの人的資源が企業の信頼を土台から高めてくれます。
長年の実績が慢心につながるのを防ぐには?
グループ各社を通じて、多角的に成長していくことで新しい課題が生まれます。ウォーレムは船舶管理、代理店業務、商務サポート、船舶ITセキュリティおよび管理など、顧客のみなさまに付加価値を提供するサービスを拡充し続けてきました。カスタマイズされたサービス提供によって、船舶建造、海上および港湾内での運航、リサイクルに至るまでの船舶ライフサイクル全体を支援できる包括的なパートナーとして機能するのが現在の目標です。
ESG目標に対する海運業界の適応度は?
デジタル化の推進が、海運業界の効率化に不可欠なのは言うまでもありません。安全性と経済合理性を担保しながら、業界の脱炭素化目標を達成する力にもなります。ウォーレムでは、規制を順守しながら既存の船舶ソリューションや船主のITシステムとシームレスに連携できる最先端のデジタルシステムを開発しました。
さらに環境負荷を下げるため、自社所有の船舶にはデュアルフューエルエンジンを導入しています。現代の船舶の多くは重油を動力源としていますが、近い将来に使用が見込まれるLNG、メタノール、アンモニアといった新しい代替燃料を扱うためにスタッフの研修も重ねてきました。また最近発表した「第2号ESG報告書」では、責任ある企業としてサステナブルな行動の実例を紹介しています。
イノベーションには、テクノロジー、マインドセット、ストラクチャーの3要素が不可欠です。その一方で、ウォーレムは「世界の未来は、依然として人間が担う」ことも信条としています。最良のデジタルツールによって、船員のパフォーマンスを向上させるのが真の目的です。
イノベーションを機能させるには、はっきりと先見性を示す必要があります。ウォーレムではさまざまな計画を体系的に実行するため、顧客のシステムや運用方法の理解に努めています。その例がIMO(国連国際海事機関)やEUが定める環境規制への対応です。自社船舶を管理する担当者向けのコンプライアンスサービスに加え、他社管理船舶へのサービス提供も開始しました。
タンカー、RORO船、多目的船などの船舶で貨物を輸送する必要がある限り、ウォーレムのような船舶業務の代理店は必要とされる。
伝統のある企業が、競争力を維持するために必要な変化は?
ウォーレムが競争力を維持するのに必要なのは、顧客やステークホルダーのニーズに対する柔軟な適応力です。新しい技術分野に進出し、最高の人材を育成する必要もあります。思考の多様性も重要なので、ウォーレムはグループ内の人材プールを拡大させました。今では陸上勤務者の45%が女性となり、過去2年間で女性船員の数が20%以上増加しています。これは海運業界の平均を上回る増加率です。
ウォーレムには122年の歴史があります。過去を理解し、未来を見据え、今日の行動に移す能力がDNAに刻まれています。海運業界、顧客、そして社会全体の利益を追求するため、停滞することなく困難な状況にも適応してきました。近年もコロナ禍、戦争、船舶への攻撃、経済制裁などの問題が起こるたびに大きく方針を修正してきました。
B2B業務が中心の海運業で、企業ブランドの価値を高める方策は?
ウォーレムの役割は、もっぱら舞台裏で世界の動きを支えること。船舶の入港準備(税関、入国管理、検疫)、貨物作業、船務サービス(乗組員交代、物資補給、船舶修理、港湾手配)の支援が本分です。すべての業務が、国内外の市場や主要ステークホルダーにおけるブランド認知の向上に寄与します。業界全体としても、イノベーション、サステナビリティ、コンプライアンス、ガバナンスを推進しています。
消費者向けの企業ではありませんが、ウォーレムにも顧客は存在します。運航面では、担当する船舶と船員のみなさまが実質的な顧客です。委託者とは事務ベースで折衝するので、さらに多くの人々とも関わります。貨物輸送の分野なら、ターミナル、荷役業者、荷主、荷受人などの主要なステークホルダーが関与します。すべての船舶業務や貨物運航を円滑化するため、規制当局との折衝も伴います。船員のみなさまには、医療の提供や乗組員の交代などでも支援が必要です。このようなすべての業務に素早く対応し、現地の状況や文化的慣習にあわせた専門的な助言を提供しています。
海運業界における近年の変化は?
クルーズ船の代理業務における継続的な成功が、アジア全域におけるウォーレムの成長を後押ししてきました。バラ積み貨物部門も成熟期を迎え、船主の売上を拡大させています。近年の業務範囲は多岐にわたり、地域をまたいだ多様なコンテナサービスへの関与からも安定した収益が得られています。小口貨物から、EPC入札に向けた大型事案の船舶チャーター(発電所やインフラなどの大規模なエンジニアリングにまつわる調達および建設のプロジェクト)まで、多彩な業務をウォーレムが支援しています。
歴史ある海運業界が、今後も発展できる理由は?
タンカー、RORO船、多目的船などの船舶で貨物を輸送する必要がある限り、ウォーレムのような船舶業務の代理店は必要とされます。人や物を滑らかに輸送するのに不可欠な存在だからです。観光クルーズへの憧れも廃れることはないでしょう。海上にはこれからも船が存在し、海運業がなければ世界は止まってしまいます。世界貿易における物資の80%以上が、海運業の力で輸送されているのです。どんな日にも休むことなく、私たちは昼夜を問わず世界を動かし続けています。
Eat Take-Away
伝統は競争力。
変動の激しい世界だからこそ、長年の実績はレジリエンスの証明になります。感染症の流行、戦争と政情不安、船舶への攻撃、経済制裁などで世界の安定が揺らぐとき、信頼されるのは伝統ある事業者です。その信頼が規制当局との折衝を助け、優秀な人材の獲得を容易にします。
どこまでも人間中心。
デジタルツールの活用やESGへの取り組みが重要なのは、それが人類に力を与えてくれるから。海運業界では、どんな新しい技術も船員に取って代わる存在にはなりません。テクノロジーは、船員にさらなる力を与えてこそ価値を発揮できるものです。
多様性で適応力を強化。
人材プールの拡大から新しい燃料の導入まで、新たな視点を追加することで企業のレジリエンスが高まります。従来の枠組みを超えて多様性の推進に注力すれば、ライバルよりも迅速に動き出して困難な状況にも対応し続けられる組織が作れます。
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