消費からつながりへ
キャスリン・ウィリアムズ STOLIグループ/アンバー・ビバレッジ・グループ IAPACオーストラリア担当セールスディレクター
「Eat Takeaway」は、世界で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーに直近の抱負と課題を教えてもらうシリーズ。インタビューから得られた学びを「Takeaway」として読者のみなさまにお持ち帰りいただきます。

今回登場するのは、STOLIグループとアンバー・ビバレッジ・グループの地域担当セールスディレクターを務めるキャスリン・ウィリアムズ氏。酒類市場の変化、プレミアム志向への対応、ダイナミックなアジア市場での戦略などについて、消費者の動向をふまえながら語っていただきました。
The 3 Key Quotes:
1. みんなにぼんやりと気づかれるより、熱心な少数に愛されたほうがずっといい。
2. メッセージを翻訳するだけでは不十分。心に響く内容に言い換えよう。
3. 体験を重視する若年層が、単なる美味しさ以上の価値を求めている。
飲料ブランドのマーケティングとセールスは、どのように連動していますか?
マーケティングとセールスが、ブランド構築に影響を与えているのは間違いありません。ひとつの要因から成功が生まれることはほとんどなく、マーケティングとセールスの方針を適切に設定することで初めて成果が得られます。ブランドストーリーを伝えることも、販売対象の市場における現実を踏まえることも等しく重要。素晴らしいブランドのアイデアは、現場でのセールス活動があってこそ価値を発揮します。販売実績の数字を細かく見れば、どんな要因が機能しているのかわかります。目標がブレないように気をつけながら、ブランド戦略を変えていく必要があります。
マーケティング部門とセールス部門が縦割りになって、うまく協働できない現実も経験してきました。それぞれが異なる目標を目指すと、コミュニケーション不足による機会損失が多くなり、投資に見合った収益が見込めなくなります。ブランドの認知度と販売数量を同時に高めるには、マーケティングとセールスの連携が不可欠です。
アジア太平洋の消費者がプレミアムスピリッツに求めているものは?
オーストラリアのスピリッツ市場は成熟しており、健康意識の高い消費者層が対象になります。そのため「クラフト」に代表される手づくり感や、サステナブルな企業の方針が重視されます。しかしアジア諸国では、状況が大きく異なります。新興の富裕層が多く、文化の多様性があり、国ごとに異なる慣習が発展しているからです。高価だからプレミアムという時代は終わり、ドリンク体験全体のプレミアム感が重視されるようになりました。
アジア諸国におけるプレミアム志向は、若年層によって牽引されています。外国産のスピリッツやプレミアムブランドのドリンクを購入する人は、洗練された嗜好や社会的なステータスをさりげなく示しています。巨大なギフト市場でも、プレミアムなブランドが選ばれます。このような贈答品は、以前ならウイスキーやコニャックが主流でした。でも現在はテキーラや他のスピリッツにも関心が拡大しています。

若年層の飲酒スタイルに変化は?
お酒との付き合い方は、間違いなく変化しています。デジタル空間での行動変容によって、飲酒文化そのものも変わってきました。巨大看板やサッカーチームのシャツに、ブランドロゴを掲示するだけで人気が出る時代は終わったのです。若年層の消費者は、ブランドとの実質的なつながりを求めています。自分たちのペースでつながれるカジュアルな関係が好まれます。
例えばオンラインでフォローしているバーテンダーが、無名のブランドを紹介してくれるケース。広告ではなく、クリエイターを通じた発見だから価値があるのです。このような発見は、知識欲を刺激します。カクテル創作を動画で学んだり、ブランドの歴史を調べたり、試飲セットを購入したりすることで知識欲が満たされていきます。ただ飲んで消費するだけでなく、さまざまな体験や学びが重要になってくるのです。このような関係が、ブランドへの愛着や信頼感を育んでくれます。
物価高で生活費がかさみ、経済的な理由で飲酒の頻度を減らした人もいます。それでも酒類ブランドとの関係が途切れるわけではありません。お酒を消費する際には、特別感のあるブランドを選ぶ傾向が強まってきました。酔って憂さを晴らすためではなく、自分へのご褒美としてプレミアムなものを求める消費スタイルです。だから消費量が減っても、ブランドへの関心とつながりは依然として高い水準にあります。
グローバルな方針を各国市場に適応させる苦労は?
グローバルな一貫性と細やかなローカライズの両立は、いつも頭の痛い課題のひとつです。各国の市場を深く理解するには、その地域で暮らし、あちこちに旅行し、食事やお酒を楽しみながら、現地の人々に何が響くのかを見極めなければなりません。私が頻繁に旅行するのはそのためで、今月だけで3カ国を訪れる予定です。人々とのつながりや、現地からの視点はとても大切です。
ヨーロッパや米国の本社に、ローカルな事情を説明しても理解されないことがあります。アジア全域で同じ戦略を適用したい、メッセージを翻訳すれば十分だろうと考えがちな担当者が多いからです。でもそんな簡単なものではありません。ただの翻訳を超えて、消費者の心に響くメッセージに言い換えていく必要があります。
アジアには酒類の広告が掲示できない国や、宗教上の理由で販売が制限される国もあります。そのような国では、さらに戦略的な行動が求められます。ユニークな価値があるブランドなら、市場に応じてさまざまなセールスポイントを強調できるでしょう。オーストラリアではサステナビリティ、香港ではカクテル文化との親和性、日本ではクラフトの要素などが強みとなります。ブランドのストーリーは、各国の事情にあわせて柔軟に表現できなければなりません。
ただ飲んで消費するだけでなく、さまざまな体験や学びが重要になってくる。
新興ブランドと有名ブランドの違いは?
新興ブランドと有名ブランドの大きな違いは、まず予算の規模にあります。それ以上に、新興ブランドには伝統も認知度もありません。これから注目を集め、信頼を築き、ゼロから人気を獲得していく必要があります。
有名ブランドが重視するのは一貫性で、既に獲得した信頼や愛着を維持することが目的になります。でも新興ブランドでは、まず存在自体を認知してもらわなければ始まりません。その国にあった独創的な方法で、知名度を高める作戦が必要です。
新興ブランドの場合は、小さく始めて深く掘り下げるのが最善策です。最初から全員にリーチしようと思わないこと。最良のタイミング、適切な場所、特定のターゲット層を決めて対象を絞り込み、深いエンゲージメントを築いていきましょう。多数からぼんやりと気づかれるより、少数の熱心なファンに愛されるほうがずっといいのです。
そして最も重要なのは、実際に味わってもらうこと。品質に自信があるのなら、試飲の提供をためらってはいけません。味わった瞬間に、良さをわかってくれる人がいます。そうやって好奇心が愛に変わっていくのです。
ただ消費されるブランドと愛されるブランドの違いは?
消費されるブランドは、ニーズを満たしているブランドです。たとえばバーで飲みたいと思ったとき、どこでも提供される手軽さが魅力です。その一方で愛されるブランドの条件は、ファンのアイデンティティの一部になっていること。その人の価値観や嗜好を反映し、感情的なつながりがあるブランドです。
プレミアムブランドにとって、ストーリーテリングが重視される理由はそこにあります。みんなブランドが象徴している本質の部分を知りたいのです。ただ美しく着飾って価格設定を上げるのではなく、心から共感できる理由を明示する必要があります。本物の品質と固有のストーリーを語れるブランドでなければなりません。大多数を喜ばせるためにナラティブを頻繁に変更するブランドは、心に響かない不誠実なイメージを持たれてしまいます。
最も重要なのは、実際に味わってもらうこと。品質に自信があるのなら、試飲の提供をためらってはいけない。
アジア太平洋市場にありがちな誤解は?
アジアが単一の市場だという認識は間違いです。同じポスターの文字だけ変更して、そのままキャンペーンを展開できるほど簡単ではありません。現地の微妙なニュアンスに通じ、人間関係を構築し、文化的な行動様式を尊重する必要があります。中国で成功したものが、韓国、ベトナム、オーストラリアでも成功するとは限りません。
中国だけに注力しようと考えるのも問題です。中国のスピリッツ市場は、依然として白酒が最強。西洋のスピリッツはごくわずかなシェアに留まり、競争は容易ではありません。複雑な規制、難しい価格設定、流通コストなどにたくさんの課題があります。十分な備えなしでは、成功が望めない市場なのです。
インドでは外国産のスピリッツに300%以上の関税が課せられます。国産スピリッツが主体の市場なので、3倍の値段を払う価値について納得してもらわなければなりません。だからこそブランド側が現地の事情を理解し、心に響くメッセージを発する戦略が重要なのです。
コロナ禍を乗り越えた料飲店消費の状況は?
大きく変化しました。コロナ禍以前は、独占販売権、ブランドの露出、メニューでの位置付けなどといった数字で成果が測られていました。それが今では、より深いパートナーシップを結ぶ重要性にフォーカスしています。コロナ禍によってホスピタリティ業界の脆弱なエコシステムが改めて浮き彫りになり、コラボレーションがさらに重視されるようになったのです。
現在はイベントを共同開催したり、限定メニューを用意したり、より有意義な瞬間を創出したりすることでコラボレーションの機会を増やしています。これはバーやレストランが、顧客のロイヤルティを構築するお手伝いにもつながります。つまりお互いに付加価値を提供する関係を築きながら、ストーリー性の高いプレミアムな商品によってブランド連携を強化する活動です。
国産のスピリッツから、外国産のスピリッツに切り替えたインドのバーを視察してきました。店側の仕入額もドリンクの提供価格も上昇しましたが、結果として来店客が増えて売上も増加したとのこと。プレミアムブランドとつながりたい消費者の心理があるから、ウィンウィンの関係になれるのです。
アジア太平洋市場の未来に期待することは?
スピリッツ業界全体で、プレミアム志向が高まっている傾向に期待しています。酒類の消費量は減少傾向にありますが、より上質なドリンクが好まれるようになってきました。自宅でのパーティー、テイスティング、クリエイティブなイベントなど、消費シーンも多様化しています。
体験を重視した飲酒文化が台頭してきました。ドリンクには、単なる美味しさ以上の価値が求められています。消費者は、背後に豊かなストーリーのある個性的なブランドを求めています。このような状況は、ブランド側が斬新な表現で価値を訴求できる大きな好機でもあります。
これは「消費」から「つながり」への大きなシフトだといえるでしょう。関心の高い消費者に働きかけ、永続的な関係を築けるチャンスがそこにはあります。
Eat Take-Away
アジアは単一市場にあらず。
贈答文化が根付いたアジア北部。サステナビリティを注視するオーストラリア。ライブ配信の商品紹介が盛んな中国。それぞれの国や地域で、現地のニュアンスを反映する努力は欠かせません。文化的な嗜好や感情面の期待をふまえて、ブランドを適切にアピールしましょう。
小さく始めて、深くつながれ。
小規模な予算からスタートせざるを得ない新興ブランドは、大々的なキャンペーンではなく忠実なコミュニティの構築に注力しましょう。心に訴えるストーリーで試飲の機会を重ねれば、コアなファン層が形成できます。大多数に漠然と知られるより、少数に心から愛されるほうがいいのです。
ユーザーの体験に注目せよ。
今日の消費者は飲酒量を減らしているだけでなく、より賢いスタイルでドリンクを楽しんでいます。料飲店とのパートナーシップからデジタル空間での出会いまで、消費者は個人的なつながりを実感できるブランドに惹かれるもの。そのようなブランドが、実際に人気を拡大しています。
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