社会を変える第一歩

マクティア マリコ Social Innovation Japan代表理事・共同創設者、mymizu共同創設者

2026. 03. 25

藤岡華奈子 / プロジェクトマネージャー

「Eat Takeaway」は、世界で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーに直近の抱負と課題を教えてもらうシリーズ。インタビューから得られた学びを「Takeaway」として読者のみなさまにお持ち帰りいただきます。 

今回のゲストは、マクティア マリコさん。ソーシャルインパクトとサステナビリティを掲げるソーシャルビジネス「一般社団法人Social Innovation Japan」の代表理事を務め、世界をリードする給水アプリ「mymizu」の事業を世界に拡大しています。社会変革を目指すさまざまな活動に、多くの人々を巻き込む戦略について詳しくうかがいました。

The 3 Key Quotes:

1. ただサービスを提供するのではなく、一緒につくっていくことが大切です。

2. 日本にも、三方良しのように、事業を通じて社会をよりよくしていこうとする考え方は以前からあります。ただ、そのような発想が昔からあったとしても、それが必ずしも同じ言葉や枠組みで語られてきたわけではないと思います。

3. 主体的に関わる当事者意識が、信じられないほど強い力になります。

日本のソーシャル・イノベーションを牽引する「Social Innovation Japan」設立のいきさつは?

共同創業者であるロビンとケイコと一緒に、2017年から小さな実験として始まりました。社会問題や環境問題に取り組む人たちと、コミュニティイベントの企画を始めたのです。

このアイデアの発端は、当時から抱いていた不満にありました。私たち共同創業者にはそれぞれ海外で暮らした経験があり、市民が行動を起こして社会変革の機運を高める場面を目の当たりにしてきました。でも日本では同じような話題を率直に話しあえる場が少なく、それならば自分たちで創り出そうと考えたのです。

具体的な目的は、社会問題の認知度を高め、現在進行中の変革について紹介すること。NPOの創設者から企業のリーダーまで、さまざまな方々を招いて自身の取り組みを語っていただきました。空き時間に始めた無給のプロジェクトでしたが、活動するうちに新たな可能性が見えてきました。そこから「Social Innovation Japan」は徐々に成長し、進化を遂げてきました。

写真:Social Innovation Japan / mymizu

西洋諸国に比べ、日本にソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)が少ないと感じられた理由は?

英国では、ソーシャル・エンタープライズは一つのカテゴリーとして認識されており、公的なガイダンスや組織形態の選択肢も比較的整っているため、「社会的ミッション」が支えられやすい環境だと感じました。英国と日本でスタートアップに関わりながら、両国の違いに気付くようになりました。それは英国の創業者たちが、自分自身の経験から意識した社会課題に正面から取り組むビジネスを構築しているファウンダーが多かったということです。

一方その当時の日本では、社会課題の解決や、社会をよりよくすることを明確に事業の中心に据えたベンチャーは、まだ比較的少なかったように思います。でも現在では、ソーシャル・ビジネスの分野にも成長が見られます。心強くもありますが、やはり課題は残っています。日本でのソーシャル・ビジネスは依然としてリスク許容度が低く、資金調達の選択肢も限られています。社会問題は政府や非営利団体が担うものだという見方が、いまも一定程度残っているとも感じます。

ただ同時に、日本にも古くから社会に対しての責任意識は根付いていました。たとえば江戸時代中期から活躍した近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方良し」の原則。だから、そうした発想が日本になかったわけではありません。むしろ、それが“特別なカテゴリ”ではなく、よい事業の一部として捉えられてきた面もあると思います。ただ、それがソーシャル・エンタープライズのような言葉や支援の文脈の中で、必ずしも同じ形で整理されてこなかったのだと思います。

写真:Social Innovation Japan / mymizu

給水アプリ「mymizu」を開発したいきさつは?

私たちが注力している分野のひとつに循環型経済があります。これは資源を収奪してモノを作り、それを廃棄するという一方通行のプロセスを終わらせ、代わりにすべてが循環するシステムを設計しようという考え方です。

気候危機、プラスチック汚染、過剰消費といった問題に対して、この循環型経済の考え方から解決策が導けるのではないかと感じていました。でも最初は、いつも同じ疑問に立ち返るばかり。素晴らしいコンセプトには違いないけど、実際にどう実現すればいいのか戸惑っていました。

さまざまな実験を1年以上にわたって重ね、企業とのワークショップを続けました。そして、プラスチックの過剰使用と大量廃棄が日本の大問題であると気づきました。使い捨てのペットボトルに頼るのではなく、再利用可能なボトルで簡単に給水できるようになったら。そんな発想から、無料でマイボトルに給水するプラットフォーム構想にたどり着いたのです。

給水アプリ「mymizu」は、ユーザーがマイボトルに給水できる場所を探せる無料アプリです。店舗や企業は、給水パートナーになればアプリを通じて認知度を高められます。ユーザーは無料で飲料水が手に入り、パートナー企業にもメリットがあるという互恵関係です。

給水パートナーの店舗は世界中で増え続け、日本国内だけでも約2,500店にまで広がりました。現在、全世界で20万カ所以上の給水スポットがあります。ユーザーからの情報提供でパートナーになる店舗も多く、地方自治体が紹介してくれる例もあります。このアプリの目標は、とてもシンプル。できる限り多くの人がペットボトルの使い捨てをやめて、マイボトルに移行できるよう後押しすることです。

これほど多くのパートナーから支持された理由は?

大切なのは「共創」の意識。ただサービスを提供するだけでなく、一緒に何かを築いていこうという呼びかけが重要です。給水アプリ「mymizu」は、設計段階からクラウドソーシングを前提としていました。関わる人みんなに、当事者意識と影響力を実感してもらいたいからです。

給水スポットを増やすことも、パートナー企業として参加することも、クラウドファンディングで支援することも「共創」のかたち。自分一人では成し得ない大きな目標達成に貢献できるとなれば、誰もが真剣に考えてくれます。そんな当事者意識が、信じられないほど強い力になります。

写真:Social Innovation Japan / mymizu

大企業と手を組んだサステナビリティ推進の事例は?

私たちの活動は「社会変革の実験室」だと思っています。ロレアルとの女性起業家支援プログラムをはじめ、サステナブル・ツーリズムやウェルビーイングといった分野のプロジェクトにも取り組んできました。企業、政府、スタートアップと手を組んで社会実験をしながら、新しいアプローチを構築しています。

いちばん重要なのは、パートナー各社との関係性です。たとえばLIXILと一緒に、ゼロからイチを創るような取り組みを立ち上げたことがあります。当時はコロナ禍で、多くの企業が世界中の従業員を巻き込めるアクションを模索していました。そこで私たちは「LIXILコミュニティデー」にあわせた「mymizuチャレンジ」を提案しました。世界中のLIXIL社員が「mymizu」アプリでの給水を記録し、1ヶ月にわたってペットボトルの廃棄をどれだけ削減できるか挑戦しました。

このプロジェクトには世界のLIXIL社員が2,600名以上も参加し、期間中にペットボトル約34,000本分の廃棄を削減しました。この数字よりも重要なのは、私たちがもたらした変化です。みんなが日々の習慣を変え、チーム内でサステナビリティについて話し合い、個人の小さな行動を可視化することで、大きな成果を上げられることに気づいてもらえました。互いに学びあいながら、ともに形にしていく喜び。そうした共創のプロセスこそが大切だと思っています。

写真:Social Innovation Japan / mymizu

企業や生活者の無関心に訴える方法は?

人々を説得するのではなく、一緒に何かを築こうと誘います。まだアプリ開発前の段階から、需要を検証するために簡単な実験をしました。簡単なモックアップを見せて、いろんな店舗に給水パートナー登録を呼びかけてみたのです。そのときの反応で、実は多くの人たちが関心を持っているのだとわかりました。私たちの活動に、ぜひ参加したいと言ってくれたのです。

まずは小さな規模で始め、みんなの声に耳を傾けながら試行し、徐々に大きくプロジェクトを構築していくのが私たちのやり方です。試行錯誤は増えますが、じっくり時間をかけた調査、ワークショップ、対話を重ねながら活動を広げていきます。いつも「本当にみんなが参加したい活動なのか?」と自問しながらプロジェクトを育てています。

これからの目標は?

給水アプリ「mymizu」が市民インフラの一部となり、地方自治体とさらに密接に連携し、プラスチックの削減だけでなく日々の健康や幸せにまで貢献できるようになること。最近は給水実績のデータを知りたいという問い合わせも多く、ここから事業の拡大やサステナビリティの推進に向けた可能性が開かれていくかもしれません。

Social Innovation Japanにとっての目標は、これまでの知見を活かして新しいアイデアやインパクトを生み出せるような活動を支援すること。さまざまな実験、学習、再生のきっかけとなり、組織やコミュニティの活性化に貢献できるのを楽しみにしています。

Eat Take-Away

  1. 大きな影響力も小さな実験から。

    ソーシャル・イノベーション・ジャパンは、試行と傾聴の繰り返しで成長してきました。小さなことから始め、ポジティブな結果を積み重ねることで、人々の行動を促して成果につなげています。世界規模の給水ネットワークも、簡単なモックアップと地道な対話から始まりました。

  2. 日本らしい社会的活動のあり方を見出そう。

    日本企業に、社会に対しての責任の意識が根付いていないわけではありません。近江商人の「三方良し」も、社会への還元を重視する伝統です。誰かの意識を変えるのではなく、変化を起こす構造づくりが真の目標。社会に根付いてきた価値観が、現代のサステナブルな変化に広がる枠組みを考えましょう。

  3. 全員が作り手になる呼びかけを。

    社会を変える取り組みは、相手を説得するのではなく、人びとの自発的な参加を促すことから始まります。コミュニティイベント、給水スポットのクラウドソーシング、企業との協働プログラムなどの成功は、全員がつくり手になった「共創」の成果。プロジェクトが自分事になれば、社会貢献の実感が高まります。

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