ハピネスを届けるブランド運営
ジェローム・シュシャン氏 ゴディバ ジャパン CEO
「Eat Takeaway」は、世界で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーに直近の抱負と課題を教えてもらうシリーズ。インタビューから得られた学びを「Takeaway」として読者のみなさまにお持ち帰りいただきます。
今回登場するのは、ゴディバ ジャパン株式会社のCEOを務めるジェローム・シュシャン氏。ベルギー王室御用達のチョコレートブランド「ゴディバ」を日本のみならずアジア太平洋地域の複数国の市場で展開するゴディバ ジャパンの代表として、優れた業績を残してきました。本国では創立97年を迎え、日本進出から昨年で50年が経ったゴディバのブランド戦略についてうかがいます。
(インタビュー:ロバート・コステロ/Eat Creative事業成長責任者)
ゴディバは過去50年にわたって日本市場での認知度を拡大してきました。現在は毎日どんなことに力を注がれていますか?
私には大きく2つの役割があります。ひとつは日々のビジネスのマネジメントです。日本で展開する300以上の店舗や多彩な販売チャネルの運営、各チャネルで販売する新商品開発などに力を入れています。一方で、数年先を見越した決断ができることも大切。忙しい中でもそのための時間を確保するようにしています。さまざまな業界関係者、お客様、同業者などに会って意見交換することで、多様な視点を取り入れます。今日の仕事だけでなく、常に未来の準備をするのが私の役割で、このような魅力的な仕事ができる立場をありがたく感じています。
私は、日本だけでなく韓国、オーストラリア、ニュージーランドも管轄し、また、ゴディバ ジャパンの親会社であるオーキッド株式会社のCEOでもあります。オーキッド株式会社は、先日ピエール・マルコリーニというチョコレートブランドを買収しました。複数の市場やブランドからベストプラクティスを見出し、それをコアビジネスに反映するのも私の役割です。さらに、ゴディバのベルギー工場はゴディバ ジャパンの管轄ですので、販売とはまったく異なる生産部門の課題にも取り組みます。限られた自分の時間を規律正しく管理し、リソース配分の優先順位を決めなければなりません。
複数の市場やブランドからベストプラクティスを見出し、コアビジネスに反映させます。
日本市場における50年間で、ブランドに起こった変化は?
日本にゴディバが初上陸したときには、ゴディバ以外にはまだプレミアムチョコレートブランドはほとんどありませんでした。チョコレート1粒が約300円でしたが、そのころの国内商品の価格は3分の1から5分の1くらいでした。つまり、私たちはまったく新しいカテゴリーを作り上げる必要があったのです。
それから50年が経ち、今ではブランド認知度も90%を超えるほど日本のお客様に浸透しています。プレミアムな品質はしっかりと守りながら、徐々に身近なブランドとしてもご愛顧いただけるようになりました。チョコレートだけでなく、焼き菓子、アイスクリーム、飲料などの分野にも進出し、今年8月に立ち上げた世界で初めてのベーカリー「ゴディパン」もご好評をいただいております。特定の季節やバレンタインデーだけでなく、年間を通して多彩な商品を販売できているのも近年の変化です。
「身近でありながら憧れのブランド」を目指しています。
販売チャネルも多様化しました。当初は一部の百貨店に限られていましたが、今ではショッピングモール、路面店、オンライン販売、スーパーマーケット、コンビニエンスストアなどにも進出しています。現在はブランド戦略として「身近でありながら憧れのブランド」を目指しています。つまり特別感を感じられるブランドでありながらも、商品は手に入れやすくすることが重要なのです。もう50年前のように東京のデパートまで出かけなくても、日本中でゴディバが手に入るようになりました。
そのような変化を起こすには、どんな配慮や工夫が必要ですか?
季節ごとに商品構成を大きく変えています。暖かい5月から9月にかけては、アイスクリーム、焼き菓子、クッキー、ドリンクなどが中心。冷やして楽しめる新作チョコレートもこの時期に発売しました。日本の四季を意識して商品を開発し、パッケージの視覚的な表現にも気を配っています。日本らしい季節感に、ゴディバが培ってきたチョコレートの専門知識を融合させるアプローチです。
昨年は日本進出50周年を記念して、「GODIVAは、日本をもっと知りたい」というキャンペーンを実施しました。例えば、各都道府県の特産品や名品を細かくリサーチし、ゴディバ ジャパンのエグゼクティブシェフ・ショコラティエ/パティシエが日本各地のお菓子や食材をゴディバ流にアレンジしました。ユニークな食材とゴディバのチョコレートを組み合わせる作業は、まさに文化の融合です。単にお客様のご希望をうかがうのではなく、独自の商品企画や文化的な考察によって変化を生み出しました。
対面コミュニケーションによる人間同士の交流を重視しています。
実店舗とオンラインでの販売は、どのように進化していますか?
すべてのチャネルで同一の体験を提供しようとは考えていません。ゴディバは今でも対面コミュニケーションによる人間同士の交流を重視しています。バレンタインデー、誕生日、夏休み、クリスマスなどの折々で、ゴディバのスタッフが「ハピネス」を届けられる機会が大切。そんな結びつきが、お客様とのつながりを強めてくれるからです。
お客様にとって、ブランドを最も深く体験できる場所は小売店。さらにカフェなら、お友達やご家族と一緒に体験できます。一方のオンライン販売で重視するのは利便性です。簡単に注文できて、商品が迅速に最善の状態で届くことを優先します。お客様一人ひとりをブランドの中心に位置付ける以上は、あらゆるチャネルで最高の体験が提供できなければなりません。デジタルとリアルの割合について、数値目標を掲げるようなことはしません。状況の変化に応じて、自然に進化するエコシステムだからです。コロナ禍の影響でオンライン販売が急成長し、必然的に一部の実店舗が閉店を余儀なくされました。でもそんな柔軟な適応力こそが、オムニチャネルのレジリエンスを証明しているのです。
ゴディバブランドは、どんな未来に向かって進んでいますか?
これまでは贈答品を求めてご来店されるお客様が中心でしたが、最近はお客様がご自身のために購入されるケースも増えてきました。自分へのご褒美や、今夜のくつろぎのためにゴディバを楽しむお客様たちです。このような傾向は実に興味深く、商品のサイズ、パッケージ、価格帯などに新たな工夫を加えています。
個人的な目標は、「ハピネスの文化」を来年もさらに高めていくこと。
新しい年を迎えるにあたって、目標としていることは?
年末のクリスマスシーズンは、ゴディバにとっても大切な期間。そして来年は2月のバレンタインデーに向けてワクワクするような計画があります。またカフェも来年新店オープンの予定があります。生まれたばかりのカフェビジネスは私たちにとって赤ちゃんのようなもの。大切に育て、笑顔いっぱいの力強い店舗にしていきたいと考えています。
リーダーとしての個人的な目標は、「ハピネスの文化」を来年もさらに高めていくこと。ゴディバの店舗に足を踏み入れたとき、言葉では説明できない心地よさを体験していただけるように努力を続けていきます。そんなムードをお客様に感じていただけたら、それだけで大成功だと思います。
このような目標を実現するには、業務の見直しも必要になるでしょう。ゴディバの店舗で働くスタッフが、在庫の数字ばかり気にしていたら顧客体験に集中できません。そのために効率化すべき業務を見極めるのも私の仕事。このような進化には多大な労力も必要ですが、ぜひやり遂げたいと願っています。
Eat Take-Away
長期的な視点を確保する。
ブランドや組織が複雑で大きな変化に直面すると、目先の課題ばかりに気を取られがち。ブランドやビジネスのリーダーは、短期的な決断によって将来の機会を逸しないように、いつでも長期的なビジョンを意識しなければなりません。将来について考える時間を毎日確保することが、将来性のあるビジネスとブランドを構築する唯一の方法です。
変革は迅速に。
あらゆるカテゴリーで激しい競争を勝ち抜くには、新たな脅威や機会を察知して素早く対応できなければなりません。ブランドの基盤や価値観を大切にして行動の指針としながら、大胆な発想も取り入れて新しい発想や手法を試していきます。このような実験精神で素早く変化できれば、ブランドは新たな商機や顧客層を開拓し、絶えず進化しながら長期的な成功を収められます。
人とのつながりがすべて。
ブランドやタッチポイントの存在意義は、すべて人と人のつながりに帰結します。スタッフとお客様のユニークな相互作用に注目し、それを深く理解することでロイヤルティを築くのが目的。お客様一人ひとりがブランドチャンピオンのような存在となり、各々のコミュニティでブランドの価値を普及してくれるような顧客ベースを構築できれば新たな機会も開けてきます。
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