日本進出のイロハ
ジェシカ・ティッシュ氏
フレッシュ・フルーツ・カンパニー・オブ・ニュージーランド
「Eat Take-Away」シリーズでは、各国で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーにインタビューを行い、今後のビジョンや課題などについてうかがいます。1日の流れから、近年急激な変化を遂げているブランド体験と顧客体験の分野における経験談、アドバイスなど、盛り沢山の内容でお届けします。記事の最後では、インタビューから得た3つの重要な学びをリストアップ。お見逃しなく。
Vol. 4では、Eat Creativeの事業成長責任者、ロバート・コステロがフレッシュ・フルーツ・カンパニー・オブ・ニュージーランド(Freshco)の日本カントリーマネージャーを務めるジェシカ・ティッシュ氏と対談しました。
(インタビューは一部内容を編集しています。)
ロバート・コステロ:まずは、フレッシュ・フルーツ・カンパニー・オブ・ニュージーランド(Freshco)について、少し教えていただけますか。
ジェシカ・ティッシュ:Freshcoは1989年創業で、主にカボチャ、リンゴ、チェリーの3種類を販売しており、それぞれ幅広いブランドを取り揃えています。実は、ニュージーランド産のカボチャの80%が日本に、残りの20%が韓国に輸出されています。日本へのカボチャの輸出を始めたのは30年前に遡り、多くのお客様と長年に渡る関係を築いています。初めはカボチャのみでしたが、後にリンゴの輸出も開始し、以降は多くのお客様に両方をお買い上げいただいています。
日本への輸出に関しては、ニュージーランドが南半球に位置しているため、真逆の季節に旬の食品を届けられることが強みになっています。私達のビジョンは、国産品と競争することが目的ではなく、一年を通して、日本のお客様が新鮮な食品を常に食卓に並べられるようにすることです。そのため、より新鮮で質の高い食品をお客様にお届けできるよう、テクノロジーやイノベーションの進化に取り組んでいます。
ニュージーランドが南半球に位置しているため、真逆の季節に旬の食品を届けられることが強みになっています。…私達のビジョンは、一年を通して、日本のお客様が新鮮な食品を常に食卓に並べられるようにすることです。
RC:これまでの経験を踏まえて、日本の顧客はニュージーランド発のブランドに対してどのような印象を持っていると思いますか。
JT:緑豊かな自然やラグビー、広々とした空間、フレンドリーな人柄など、一般的に見て、ニュージーランドにポジティブな印象を持っている方が多いように感じます。実際に行われた調査の結果を見ると、これは正しい認識と言えると思います。ニュージーランド産の飲食品に関しては、「安全で栄養価が高い」という認識や信頼が見られます。一方で、ニュージーランドが最先端のテクノロジーや新たなイノベーションを創出していることは、ほとんど知られていません。飲食品については、すでに多くの企業が参入しているのでその足跡を辿ることができますが、こうした新興分野にはより高いハードルが待っています。
RC:日本に新たなブランドを導入する際、重視していることは何ですか。
JT:輸出業者がよく直面する課題のひとつとして、日本の流通業者やお客様が製品の外観やパッケージに高い基準を求めていることが挙げられます。自国では問題にならないような製品の些細な欠陥でも、日本では受け入れられません。こうした理由から、日本への輸出を実現することができれば、その経験を活かして、ほかのどの国にも進出する準備ができていると言えます。
日本への輸出を実現することができれば、その経験を活かして、ほかのどの国にも進出する準備ができていると言えます。
このほかには、ローカライゼーションが重要になります。自国で成功を収めた製品が、ほかの国でも通用すると思い込まないこと。日本のお客様の買い物の仕方は、ほかの国とは異なります。ニュージーランドでは、多くの人が車でスーパーマーケットを訪れ、買い込んだ大量の商品をトランクに積み込みます。買い出しに出かけるのは、週に1回くらいでしょうか。一方、日本ではお客様が買い物する際は電車や自転車を利用することが多く、巨大な洗剤を買って帰るような光景は見られません。
それだけでなく、パッケージの形態も異なります。日本の家庭の収納スペースはニュージーランドと比べて遥かに小さいので、商品も小さくなる傾向が見られます。こうした違いを理解し、日本で求められる要素を判断するためには、時間が必要です。また、日本では、多くのプロセスが慎重に進められます。信頼関係の強化、販売する製品と価格の合意、プロモーション活動など、ほかの国と比べて時間をかけて行われるケースが多いです。
RC:最近のグローバルな傾向は、日本で展開しているニュージーランド発のブランドにどのような影響を与えているのでしょうか。
JT:とくに影響を及ぼしているのが、インフレです。日本の小売店のバイヤーの多くは、これまでインフレの影響に直面したことがなかったはず。30年の間、価格が変動していなかったので、値上げを行うのは非常にむずかしい状況と言えます。ここ数年、ニュージーランドでは人件費や原価が上昇しており、同じ価格で輸出するのは、コストと見合わなくなっています。上昇したコストを賄うためには価格を上げなければならないのですが、小売業者にとっては受け入れがたい。そのため、製造業者は小売価格を上げるのではなく、製品のサイズを小さくするなど、ほかのやり方を見つけなければなりません。
賃金が上がっていないことも、製品を値上げしづらい理由のひとつです。お客様が製品を必需品と感じていなければ、すぐに離れていってしまいます。このほかに、ここ数年、輸出業者の多くが直面しているのが配送に関する問題です。配送が遅れると、製品が届くのは国産製品が出回る時期になってしまいます。そのためには、スケジュール通りに製品が届くよう、徹底しなければなりません。
また、今年2月にニュージーランドを襲った大型台風「ガブリエル」は、Freshcoのビジネスや産業に大きな被害を及ぼしました。とくに、リンゴやカボチャが被害を受けています。
RC:こうした課題を踏まえて、Freshcoでの今後の役割、事業の展望やブランドの展開について伺えますか。
JT:キウイフルーツが成功を収めたように、ニュージーランドの生鮮食品が、日本のお客様により広く知られるように取り組んでいます。例えば、Freshcoのリンゴは、日本の国産品とは全く異なります。小ぶりで甘く、歯ごたえを感じられるので、おやつに食べるのをおすすめしています。日本ではリンゴはスライスし、食後に家族で食べることが多いようですが、Freshcoの果物はヘルシーなおやつに最適です。皮の部分にとくに栄養が多いので、皮ごと食べていただくよう呼びかけています。
このほかには、業界の成長を支える持続可能な取り組みに注力しています。ニュージーランドの農林産業は非常に活発で、より効率的な生産方法を見つけるため、継続的な投資を行っています。こうした新たなテクノロジーやベストプラクティスを日本に導入することで、イノベーションを起こせると思っています。
ニュージーランドの農林産業は、より効率的な生産方法を見つけるため、継続的な投資を行っています。こうした新たなテクノロジーやベストプラクティスを日本に導入することで、イノベーションを起こせると思っています。
例えば、日本の一般的なリンゴ園では高齢者がリンゴの木に登って、すべて面に日光が当たるよう、リンゴの実の向きを変えています。労働問題や高齢化が進む日本では、食料を国内生産だけで賄うことが、今後よりむずかしくなるでしょう。こうした日本の農林産業にまつわる課題の解決に向けて、お手伝いできるはずです。
RC:2023年、何を達成すれば成功と言えるでしょうか。
JT:初年度は顧客の皆様への理解を深め、小売店の方々の協力の下、お客様と直接お話することで、製品の知識を得ることが重要だと感じています。大型台風の影響で厳しい年になると思いますが、日本のお客様に高品質の製品を届けて、次のシーズンを楽しみにしていただける年にしたいですね。
Eat Take-Away
ローカライゼーションが不可欠:日本で成功を収めた海外ブランドは例外なく、コンセプトから製品、体験、コミュニケーションに至るまで、日本の顧客の求める基準に応えるため、多くの時間を費やしています。事前に入念な調査を行い、ターゲットとなる人びとへの理解を深め、関係を築くために最も効果的な方法を見つけ出すことが不可欠です。
特定の国との関係を強調するのは諸刃の剣:マーケティングやコミュニケーションを行う際は、ターゲットとなる人びとがブランドの原産国をどのように認識しているか考慮することが重要です。ターゲットとなる人びとがその国のことを知らないのならば、逆にブランドの浸透や成功を妨げるかもしれません。進出先の人びとの認識をよく理解した上で、原産国との関係をどの程度強調するか判断することが必要です。
成功の鍵はステークホルダーの意思を統一すること:送り出すサービスや製品によっては、複数のステークホルダーが存在することも珍しくないでしょう。すべてのステークホルダーとの関係を慎重に管理し、ブランドの成功に向けて、全員が同じ方向を向いていることを確認することが求められます。サプライヤー、輸入パートナー、流通業者、小売業者など、それぞれのステークホルダーがブランドやビジネス、成功について、相反する見解を持っているかもしれません。ブランドのビジョンを統一するため、多くの時間を費やすことが重要です。
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