必要なのは勇気
自動車の輸出台数で、日本が初めて中国に抜かれました。中国汽車工業協会によると、2023年上半期の自動車輸出台数は214万台。前年比76%の急増で、同時期の日本(202万台)を上回ります。中国は初めて世界最大の自動車輸出国となりました。
さらに国際通貨基金(IMF)の発表によると、今年はドイツがドルベースのGDPで日本を抜き去ります。外国為替では円安が続き、日本円が対ユーロで160円の大台を突破。対ドルでは33年ぶりの安値も目前です。
そんな状況のなか、東京の有明で2週間の「ジャパンモビリティショー」(旧東京モーターショー)が開催されました。イベントのテーマは「乗りたい未来がここから始まる」。未来にワクワクしていた時代への回帰願望が熱気を帯び、平日の午前中でもロックコンサートのように賑わっていました。
未来的なコンセプトカーやトラック。その姿を写真に収めようとする来場者たち。各社が展示しているのは、自律走行機能を内蔵したBEV(二次電池式電気自動車)です。きらびやかなライフスタイルのアピールからは、未来への楽観さえ伝わってきました。
しかしイベントの世界観とは裏腹に、2023年の日本は正反対の現実に直面しています。電気自動車の普及は中国、ヨーロッパ、アメリカに大きく遅れをとり、日本の普及率はわずか2.1%(2023年4月時点)。販売台数の上位25カ国にも入っていません。世界的な電気自動車のトップブランドといえばBYD(比亜迪汽車)とテスラですが、日本企業で上位25に入っているのは16位のトヨタだけという有様です(しかもハイブリッド車を含めたランキング)。
いったい何が起こっているのでしょうか。ヨーロッパは大胆な方向転換を図り、アメリカはインフレ抑制法(IRA)の補助金で自動車産業の再建に乗り出しています。トヨタが「プリウス」を発売したのは1997年でしたが、その後も内燃機関や水素燃料へのこだわりを継続。今年になって社長兼CEOを交代させ、ようやく電気自動車に注力する姿勢を見せました。また2010年に「リーフ」を発売した日産も、12年がかりでアリアやサクラ(軽自動車)を生産し始めたところです。
日本企業の多くは国内市場を偏重し、小さな失敗のリスクも許容しません。近頃Eat Creativeが主催した英国商工会議所との座談会でも、ある日本人経営者が本質的な問題を指摘していました。日本企業が意識しているのは国内の競合他社であり、国際市場のトップを狙う重圧など誰も望んでいないというのです。企業だけでなく、日本国民の多くも気候変動などのグローバルな問題には無関心。このような環境で、大きな変化は期待できません。
他の業界でも、同じ歴史があります。1990年代後半の日本には、世界で最も先進的な携帯電話のエコシステムがありました。NTTドコモが1999年に開始した「iモード」は、世界初の常時接続モバイルプラットフォーム。インフラも端末も欧米のはるか先を行っていたのに、日本企業は国内の競争一辺倒で国際市場への拡大に乗り出しませんでした。その後iPhoneが登場し、日本市場もアップルが優勢となったのはご存じの通り。わずかなアンドロイド携帯だけが生き残りました。
でも諦めてはいけません。日本には依然として世界有数の研究開発拠点があり、ハイテク機器の製造地としても有望です。オール電化に尻込みしていたトヨタでさえ、業界をリードする革新性を生み出そうと動き始めました。最近も全固体電池とステアバイワイヤの成果を披露したばかりです。
日本が国際的な視野を持つことで、このようなプロジェクトは輝きを増します。日本が得意とするエンジニアリングの技術を土台にしながら、失敗のリスクも織り込んだ寛容な協業を進める必要があるのです。
Eat Creativeが業務をサポートする三菱ふそう(ダイムラー・トラック傘下)も、2017年に日本初の量産型オール電化トラック「eキャンター」を発売。ユーザーが内燃機関から移行しやすいように、車両の寿命までをサポートするデジタルサービスも提供しています。親会社のダイムラー・トラックは、米国で中型電動トラックのブランド「ライゾン」を立ち上げたばかりです
そしてこの秋には、台湾の半導体企業TSMCが第3工場を日本で建設する計画も発表されました。実現すれば、世界最小の最先端チップが熊本県で製造されることになります。
日本には、ジャパンモビリティショーで提示された明るい未来を迎える潜在力があります。でもその前に、あらためて世界市場での役割を自己定義しなければなりません。国際的な視野を持ち、日本企業主導のパートナーシップでグローバルな課題に取り組むのか。それとも国内市場での生き残りを優先し、世界から忘れ去られていくのか。
必要なのは勇気です。
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