原動力は、顧客中心主義

セドリック・ウェスナー氏 ロレアル グローバルラグジュアリーリテール カスタマー体験ディレクター

2023. 06. 22

ロバート・コステロ / 事業成長責任者

「Eat Takeaway」は、世界で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーに直近の抱負と課題を語っていただくシリーズ。インタビューから得られた学びを「Takeaway」として読者のみなさまにお持ち帰りいただきます。

今回は、フランスの大手化粧品会社ロレアルで、グローバルラグジュアリーリテール部門のカスタマー体験ディレクターを務めるセドリック・ウェスナー氏。進化の著しいブランド体験と顧客サービスの世界から、ブランドやマーケティングの担当者が得られる教訓とは?

(インタビュー:ロバート・コステロ / Eat Creative事業成長責任者)

会社での役割や、毎日の仕事について教えてください。

課題に挑むことが大好きで、いつも解決策を練っています。お客様が今どこにいて、どのようなショッピングをして、明日にはどう変わっていくのかを考えるのが日々の仕事。カスタマー体験の分野で業界をリードするため、いつも先回りして考える癖をつけています。

私の原動力は、顧客中心主義。お客さまが望むブランドの姿を定義し、あらゆる施策の中心にお客さまを据えています。お客さまと毎日接し、最高の体験を提供しているのは、ロレアルのビューティーアドバイザーたち。コロナ禍の影響で、消費者の行動、買い物の方法、ブランドとの関係も大きく変化しました。オンラインとオフラインで同等のブランド体験を期待されている以上、2つの世界をしっかりと連携させなければなりません。チャンネルごとの違いよりも、あくまでお客さまの満足に目を配ります。

私の原動力は、顧客中心主義。お客さまが望むブランドの姿を定義し、あらゆる施策の中心にお客さまを据えています。

私たちのブランドを訪れるお客さまは、みな他店とは違う体験を期待し、その思い出を誰かに伝えたいと考えています。店舗からお帰りになったお客さまの記憶に、ブランド体験を留めておくのが私たちの目標。そのために欠かせないのが、ビューティーアドバイザーの存在なのです。ビューティアドバイザーは、ロレアル傘下の各ブランドとお客さまとの間に人間的なつながりを生み出す人。バーチャルな世界では、特に重要な役割を担っています。

グローバルブランドとしての目標がある一方で、各地域ごとの市場では個別のニーズ対応も必要です。両者のバランスはどのように考えていますか

私は世界の全市場を統括していますが、それでも地域ごとに異なるお客さまの特性を考慮し、傘下ブランドが世界中で一貫した体験を提供できるように努めています。それと同時に必要なのが、ブランド体験の提供を通じた他社との差別化。ロレアル傘下のブランドにはそれぞれのDNAがあり、語るべきストーリーも異なってきます。各国市場の調査に基づいて地域リーダーたちと密接に協力し、顧客体験のあらゆる側面で効果的な方法を探っています。

そのような戦略において重要なのが、個々のお客さまに特化したパーソナライゼーションです。特にビューティテック(ITを活用した美容アドバイス)は、最もパワフルな変化が起こっている先端分野。より多くの専門知識を提供できる新しい窓口でもあります。ビューティーアドバイザーの知識、分析力、専門性などを、ITサービスと融合させて豊かに提供するのが目標。オンラインのサービスと、実店舗のビューティーアドバイザーは相互に補完しあう関係です。ビューティーアドバイザーが築いた人間関係を拡張し、お客さまがさらに美しくなれる仕組みを構築しています。

サービスのパーソナライゼーションは、お客さまの期待をより深く理解できる強力な仕組み。世界は目まぐるしく変化しており、グローバルな戦略をローカルに落とし込む度合いも地域ごとに異なってきます。

巨大ブランドロレアルは、傘下にたくさんのブランドを抱える親会社でもあります。ポートフォリオの監督者にはどんな役割がありますか?

ロレアルの傘下には、さまざまなニーズや願望を互いに補完し合うブランドがあります。このポートフォリオこそが、私たちのパワーの源泉です。私たちはみなポートフォリア内のブランド商品を使っているので、ブランド同士が互いに顧客という魔法のような関係。多くのラグジュアリーブランドがこのようなグループ組織を持っていますが、ブランド間の相乗効果を確実に生み出せなければ意味がありません。互いに学び合い、常に一歩先の施策を考えるのが目標。新しい体験や製品のテストに力を入れているブランドもあれば、特定の顧客グループや地域との関係を強化しているブランドもあります。互いの知見から学びあい、すべてのブランドが成長できるのもポートフォリオの恩恵といえます。

ロレアルの傘下には、さまざまなニーズや願望を互いに補完し合うブランドがあります。このポートフォリオこそが、私たちのパワーの源泉です。

若いZ世代から熟年層まで、さまざまな属性を持つお客さまのニーズや期待に応えられるのがロレアルグループの強み。私たちの目標は、美容の力で世界を動かすこと。美容業界には、人々の役に立つという使命があります。みなさんがもっと心地よく暮らし、もっと自信を持てるように、ブランドの魔法でお手伝いしていきます。

私たちの目標は、美容の力で世界を動かすこと。美容業界には、人々の役に立つという使命があります。みなさんがもっと心地よく暮らし、もっと自信を持てるように、ブランドの魔法でお手伝いしていきます。

業界やグループを俯瞰できる立場から今後どのような変化を予測されていますか?

急激な変化が起こると思います。特に体験のデジタル化、新世代のショッピング体験、コミュニケーション手法などの分野で、一歩先を進んでいるのがアジア地域。他の世代への影響力でいえば、Z世代のふるまいにも注目しています。このような変化は歓迎すべきものであり、ブランド側にも適応が求められます。新製品の開発や顧客体験の提供にも、いっそうスピード感が求められてくるでしょう。

ロレアルには強力なリサーチ&イノベーション部門があり、製品面はもちろんお客さまの行動も注視しながら、新しいトレンドや次のビジネスチャンスを分析しています。全員が同じ方向を向いて働いているからこそ、ブランドの力も高まってきます。あらゆる世代や属性のお客さまにご愛顧いただけるよう、新しいテクノロジーやチャンネルに適応していかなければなりません。

この世界は複雑にできています。バーチャルの世界が進化するほど、現実世界が置き去りにされる訳でもありません。人々はあくまでつながりを求め、思い出に残るリアルな感覚で物事を理解し、自分だけの体験を創造したいと願っています。そんなニーズを満たすために育成されるのが、ロレアルのコマーシャルチーム。ビューティーアドバイザーを育て、顧客中心主義に基づいた接客スキルを高め、パーソナライゼーションを重視します。商品や金銭の取引より、人間同士の関係や体験がよほど重要なのです。オンライン情報やSNSの拡大によって、人間的なつながりが希薄になったと感じる人もいるでしょう。でも実際はその逆で、人々はますます積極的に店舗に足を運び、特別なブランド体験を求めています。

バーチャルの世界が進化するほど、現実世界が置き去りにされる訳でもありません。人々はあくまでつながりを求め、思い出に残るリアルな感覚で物事を理解し、自分だけの体験を創造したいと願っています。

のような顧客のニーズは、今後の実店舗や物理的空間をどのように変えていきますか

店舗や売場の細かな工夫だけでなく、体験をもたらす接点としての機能が大切。ショップの環境や空間づくりには大きな転換点が来ています。サンプルや商品の陳列方法で競うのは、すでに過去の話。現在は商品よりもお客さまを主人公と考える視点から、顧客体験の接点となる店舗のあり方が変わってきています。

一人でお越しのお客さまも、お友達と一緒のお客さまも、誰もが再び足を運んでしまうような空間。つまりお客さまが中心となる心地よい場所を作りたいのです。お客さまだけでなく、ビューティーアドバイザーにとっても快適なカウンセリングスペースを用意すること。そこにビューティーテックも導入すれば、より充実したサービスと専門知識によってお客様の美容ニーズを深く理解し、ユニークなショップ体験が提供できます。このような体験の一部をデジタル環境に持ち込むことで、お客さまの信頼をさらに獲得してリピートにつなげます。

ロレアル傘下のブランドは、みな素晴らしい製品とストーリーテリングを提供しています。ビューティアドバイザーの知見とショップ環境で、お客さまの思い出に残るような瞬間を生み出すのが目標。商品は脇役という新しい考え方です。店舗を固定された箱のようには考えず、お客様を歓迎しながら最高の美容コンサルティングと顧客体験を提供することに集中し、また来たいと思っていただけるような場所にすること。進化中のさまざまな技術も融合し、最終的に物理的なスペースとして表現されるイメージです。

数年のうちに達成したい目標がありましたら教えてください。

私の関心はいつもお客さまにあります。でもブランドアンバサダーの役割を担うビューティーアドバイザーこそ、ロレアルでもっとも重要な人材なのだと自分に言い聞かせています。「無駄な時間をなくしてくれて、高度な専門知識を教えてくれて、お客様とのシームレスな体験を可能にしてくれてありがとう」とビューティーアドバイザーに感謝されるのが私の目標。ビューティーアドバイザーのために働けば、お客さまにも喜ばれることが明らかだからです。ブランドアンバサダーたちに理想的な環境を用意し、最高のツールを授けている実感が毎日のやりがいでもあり、究極の目標でもあります。そしてオフラインとオンラインの世界をリンクさせるのも大きなテーマのひとつ。どちらが重要なのかという議論ではなく、シームレスな世界を構築することで私たち自身が進化したいと願っています。

ブランドアンバサダーの役割を担うビューティーアドバイザーこそ、ロレアルでもっとも重要な人材なのだと自分に言い聞かせています。

Eat Take-Away

  1. オンラインだけが勝負ではない。

    デジタル情報の普及で便利になったものの、ノイズが多すぎてブランドの差別化は難しい時代。リアルな現場で上質な顧客体験を提供すれば、ブランドへの信頼を造成して価格プレミアムへの納得感も育てられます。顧客が何度も足を運び、ブランドの体現者と個人的な関係を築くことで、顧客をブランドの支持者に変えていく現実の空間も大切にしましょう。

  2. ブランドの体現者登用しよう。

    自社ブランドの強みや目的を深く理解し、それを社内外に発信しようと努力している人たち。そんな「ブランドの体現者」は、社内を活気づけて仲間の意欲を引き出してくれます。ブランドの目的を達成しながら、組織を強力に進化させてくれる人材を社内で眠らせないこと。ブランドの体現者として抜擢し、前線で活躍してもらいましょう。

  3. 売上データに表れない顧客のニーズ知ろう。

    オフラインであれオンラインであれ、時間と資金を投じて顧客の要望やニーズを把握することが大切。それが無駄な支出を効率化するだけでなく、意思決定の明確化と迅速化にもつながります。消費者の期待レベルが高まり、競争がさらに激化していく現代。売上データだけを重視して、自社ブランドや製品に対する顧客の考えを知らずに事業を展開するのは危険です。

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