日本的なメンバーシップ型組織との付き合い方
今年の6月はG7広島サミット2023が開催されたこともあり、日本におけるダイバーシティ&インクルージョンの問題について何度も考えさせられました。
日本政府は、少なくとも遅れを自覚しているようです。東証プライム市場の上場企業の役員について「2025年を目処に女性を1人以上選任」「2030年までに女性役員の比率を30%以上に」といった数値目標を発表したのは焦燥感のあらわれ。その一方で、LGBT理解増進法、難民法改正案、2023年版ジェンダーギャップ報告書では、時代に逆行する動向も浮き彫りになりました。
日本の社会は多様性の受容を苦手としており、その傾向は大企業などの組織にもはっきりと見受けられます。根深い原因を理解する手段として、今回は「メンバーシップ型雇用」について考えてみましょう。世界では例外的な雇用慣行ですが、日本では極めて標準的な人事システムであり、教育や社会の価値観とも分かちがたく結びついています。
幅広い業務を学ぶのがメンバーの目的
主に大学新卒者を対象として、職務や勤務地などを決めずに結ばれる雇用契約が「メンバーシップ型雇用」です。社員は自分の処遇を会社に一任し、転勤や異動を繰り返しながら年功序列で出世します。終身雇用を前提としているため、社員が突然の辞令を拒否することはほとんどありません。
メンバーシップ型の組織が育成したいのは、高い専門性を持つスペシャリストよりも、幅広い業務に理解のあるジェネラリストです。スペシャリストは組織の末端に置かれ、ジェネラリストの上司の指示に従う関係が多くなります。役職が上がるほど、ジェネラル度も高まっていくのはそのためです。
大学卒業から35年以上も同じ会社で働くこと、所属メンバーが大きく変わらないこと、急成長より将来にわたる安定を重視することを重視する組織なら、このようなシステムに多くの合理性を見いだせるでしょう。誰もがいつかは役職をもらえるのだから、成果主義でギスギスするのは無駄。同僚との競争よりも助け合いが求められます。このような特徴はバブル期まで日本企業の強みとみなされ、欧米の企業にはない長期的な視野が持てる原因と分析されていました。
メンバーシップ型の企業では人材の平均的な底上げを目指しているため、多様なスキルや専門性が評価されにくく、女性や外国人が活躍しにくい組織でもありました。女性社員を男性社員との結婚要員として雇用する会社も多く、成長の機会は与えられません。また雇用の流動性が低いため、パートタイマーは正社員よりもはるかに低い待遇で区別されます。大卒の日本人男性だけで役職を分け合う慣習が、人材登用のディスアドバンテージだと認識されることはほとんどありませんでした。
ゆっくりと起きている変化
外国企業が日本企業との共同プロジェクトで感じる文化的なギャップは、このようなメンバーシップ型組織を理解することで対処できます。女性のプレゼンスが弱い会社や、リーダーに専門性が感じられない会社は、メンバーシップ型組織である可能性が高いでしょう。このような会社と対等に付き合うには、こちらもジェネラリストとして接するのがおすすめです。スペシャリストはジェネラリストの下位と見なされることが多く、専門性をアピールするほど便利屋のベンダーとして軽く扱われかねません。
それでも変化は起きています。かつては安定の象徴だったメンバーシップ型の企業文化も、日本経済の衰退とともに人気を失ってきました。高いスキルを持った若者は、給与がアップする前に倒産しかねない日本企業より、経験やスキルアップの機会が豊富な外資系やスタートアップ企業に職を求めています。この流れに危機感をおぼえた日立製作所やKDDIなどの企業が、「ジョブ型雇用」を掲げて高スキル人材の中途採用に乗り出しました。
しかしジョブ型雇用が日本で一般化するには、雇用を流動化する法改正が不可欠です。これまで日本が失業率を低く保てたのは「メンバーシップ型」「新卒一括採用」「年功序列」の功績も大きく、安定を捨てて雇用を流動化させる政策には大きな反発があるでしょう。
それでもジョブ型雇用が健全な成果主義と共に普及するとき、ようやく多様な背景を持ったスペシャリストたちが企業でも積極的に雇用されはじめ、ようやく日本社会全体がダイバーシティ&インクルージョンの価値観を受容する流れができるはず。そんな変化が本格的に訪れるまでは、日本的なメンバーシップ型組織の背景を理解してうまく付き合いましょう。
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