ブランドのDNAで成長を継続

ロイック・レトレ ジュリーク CEO

2024. 04. 17

ロバート・コステロ / 事業成長責任者

「Eat Takeaway」は、世界で活躍するブランドリーダーやマーケティングリーダーに直近の抱負と課題を教えてもらうシリーズ。インタビューから得られた学びを「Takeaway」として読者のみなさまにお持ち帰りいただきます。

今回ご登場いただくのは、オーストラリアの化粧品ブランド「ジュリーク」を率いるロイック・レトレ氏(CEO)。これまでLVMH、ネスプレッソ、ダイソンなどのグローバルブランドで培った豊富な経験を活かしながら、有名ブランドがしのぎをけずる化粧品業界で着実に成果を挙げています。創業時から受け継ぐDNAを軸に、自然派化粧品のパイオニアとして成長する秘訣をうかがいました。

(インタビュー:ロバート・コステロ/Eat Creative事業成長責任者)

世界的なブランドを擁する各社でのキャリアを経て、ジュリークのCEOになった経緯は?

ブランドのDNAに魅了されたのが最大の理由です。ジュリークの設立は1985年にまで遡りますが、当初から豊かな自然の恵みで育った植物やハーブから製品を開発していました。今から40年も前に、開発から生産までの全行程で自然派の方針を実践していた企業は希少だと思います。

ジュリークの「seed to skin」(種から肌へ)というコンセプトは、バリューチェーンとサプライチェーンの徹底した自社管理を意味します。原料の植物をバイオダイナミック無農薬有機農法で栽培し、高品質な有効成分を取り出しているのが製品の魅力。世界的な専門家たちと協力し、自社工場と独自の処方によって開発された自然派化粧品が、直営店や百貨店に出荷されるのです。

ジュリークに似たブランド戦略は、ネスプレッソ時代にも経験しました。強固な信頼関係を築いた農家から原料のコーヒー豆を調達し、粉砕、焙煎、包装、出荷までの全工程を自社で賄うのがネスプレッソのこだわりです。だからジュリークの企業理念に触れたとき、その哲学の真意がわかって心に響きました。製品の品質、店舗での体験、ユニークなブランドストーリーの重視も共通しています。

ジュリークの「seed to skin」(種から肌へ)というコンセプトは、バリューチェーンとサプライチェーンの徹底した自社管理を意味します。

ナチュラルであることを追求しながら、ジュリークは効能において妥協することがありません。オーガニックを謳う自然派ブランドには、ケミカルなブランドほど効能が期待できないイメージもあります。でもジュリークは、とにかく効果が実感できる製品の開発に全力を注いでいるのです。

バイオダイナミック農法の実践や顧客コミュニケーションにおいて、オーストラリアの本拠地はどんな役割を果たしていますか?

創業者であるユルゲン・クライン博士とウルリケ夫人は、世界で最も健全で自然な土壌を探し歩いてアデレードヒルズに辿り着きました。だからこそ現地の風土や地域のコミュニティは、ジュリークの活動にとっても極めて重要なのです。気候や環境に合わせて植物を栽培する際には、先住民たちが受け継いできた知識も大きな役割を果たしています。豊かな地質はもちろん、太古の昔からこの土地を守ってきた人々の存在は欠かせません。

ジュリークの基本理念でもある開拓者精神は、ビジネスにどんな影響を与えていますか?

開拓者であり続けることは、事業を発展させるアプローチそのものです。環境に最善な方法を実践し、なおかつ効能を実感していただける製品をつくるのがジュリークの決意。限りなくナチュラルな化粧品ブランドを生み出したいという創業者たちの初心は、今でも変わらずブランドの細部にまで息づいています。

ジュリークのDNAを守るため、ナチュラルであるというブランド価値は譲れない。

私が数年間働いたダイソンも、同様の開拓者精神を体現しているブランドのひとつです。創業者のジェームズ・ダイソンには、テクノロジーとブランドについて譲れないこだわりがありました。紙パックなしの掃除機を初めて開発したとき、競合他社は「紙パックで継続的な利益を得るビジネスモデルなのに、それをやめてしまうのか」と笑いました。でもダイソンは、紙パックの煩わしさにこそ改善の余地があると考えていたのです。技術の開発と普及には時間がかかりましたが、揺るぎないビジョンと執念でついに理想を実現しました。前例のない挑戦を辛抱強く突けていくのがパイオニアの使命です。

フレグランスの成分が100%ナチュラルであることを保証するため、ジュリークも長い道のりを歩んできました。香水以外の製品でも98%以上が自然由来の香りなので、一貫した配合が難しくなることもあります。もちろん安価で手軽な配合方法もありますが、製品のナチュラルな品質が損なわれては意味がありません。ジュリークのDNAを守るため、ナチュラルであるというブランド価値は譲れない。ジュリークにも素晴らしい調香師がいますが、ナチュラルであることは通常の調香よりも遥かに難しいことなのです。

日本の消費者は品質への関心が特に高く、気になったブランドの背後にあるストーリーを理解したがります。

ブランドの個性やストーリーを外国市場で浸透させる際に、特別な工夫は必要ですか?

市場による違いは、それほど大きくないと思っています。ブランドが自らに忠実であれば、顧客の心に響くはず。日本の消費者は品質への関心が特に高く、気になったブランドの背後にあるストーリーを理解したがります。そのためロイヤルティを獲得したければ、ブランドの本質を偽りなく明らかにするのが近道なのです。

つい先週も、自社農場でメディアやインフルエンサーを招いたイベントを開催したばかりです。農園での仕事、それぞれの植物の重要度、栽培方法などについて、特に熱心に質問されていたのは日本人の方でした。好奇心いっぱいの目に、新しい知識に出会う喜びが浮かんでいました。日本がさまざまな点で特別なのは事実ですが、日本市場向けのアプローチは世界市場でも応用できます。誠実な信念と説明によって、ブランドの影響力が増大できるからです。

中国の皆さんも、ジュリークのバイオダイナミック農法には高い関心を示してくださいます。消費者も知識が豊富で、新しいストーリーや体験を求めています。中国市場では、5年前や10年前には見られなかったナチュラル志向やサステナブル志向の消費スタイルが目立つようになりました。

ジュリークが「Bコープ認証」を取得した理由は?

Bコープ認証は、環境や社会に配慮した公益性の高い企業の証です。最近になってサステナビリティを意識し始めた他社とは異なり、ジュリークは40年前からサステナブルな事業経営に取り組んできました。そういう意味でもBコープ認証の取得は自然な流れだったし、ジュリークが長年にわたって実践してきた倫理的な事業を追認してもらえた形です。これまではサステナブルな取り組みについて積極的に喧伝することもなかったので、ジュリークの先進性にあらためて驚かれる方もいらっしゃいます。企業の方針と行動について明確に発信することで、チームの長年の努力に報いる一歩がBコープ認証でした。

ブランドのストーリーをもっと明確に発信したい。印象的に伝えることで、消費者に親近感を抱いていただくのが目標です。

世界の化粧品市場では、どんな変化が起こりつつありますか?

効能に妥協しない自然派化粧品へのニーズは、今後もどんどん拡大していくと思います。その先頭に立っているブランドがジュリーク。ナチュラルな製法のフェイスオイル(フェイスクリームや美容液を含む)は特に勢いがあります。ナチュラルな原料や製造工程を採用しながら、しっかりと効能を実感できる製品はミレニアル世代やZ世代にも人気です。中国でもフェイスオイル市場の規模は過去2年で倍増しました。創業以来フェイスオイル製品を製造してきたジュリークにとって、この流れはチャンスだと確信しています。

これから取り組みたい課題は?

ブランドのストーリーをもっと明確に発信したい。農場とブランドにまつわる背景には、まだ語り尽くされていない事実もたくさんもあります。そのようなストーリーを印象的に伝えることで、消費者に親近感を抱いていただくのが目標です。

Eat Take-Away

  1. 初心に忠実であれ。昔ながらの方法を踏襲するという意味ではありません。最も大切な本質から、ブレないように気を付けましょう。創業の目的を忘れず、時代を越えてビジネスにインパクトをもたらす方法を真摯に探究し続けること。どこまでもナチュラルであるというジュリークの開拓者精神が、40年前に蒔いたブランドの種子を今日まで育ててきました。ブランドのDNAには、時代を超えた真実があります。

  2. 妥協するな。効率や目先の利潤を性急に追い求め、品質やブランド価値を損なうのは本末転倒。特に高級ブランドの場合、そのような近道が長期的な成功や顧客ロイヤルティの獲得を阻害します。ジュリークの哲学を貫くには、多額の先行投資や長期にわたる製品開発も必要です。そのような努力は、市場をリードする製品ポートフォリオやブランドの評価によって報われるもの。簡単だからやるのではなく、難しいからこそ価値ある挑戦なのです。

  3. 堂々と語れ。具体的でインパクトのある企業目標と、地域の自然環境や社会をサポートする行動が、ジュリークの物語を根底から支えています。このようなブランドの物語を明確に伝えることをためらってはいけません。自分がやっている正しい行動と動機について、謙遜せずに堂々と語りましょう。信念と実績を正面からアピールすることで、確かな認識に基づいた消費者のロイヤルティが獲得できます。