食の探訪

Eat Magazine

野心と想像力。無知ゆえの自信。出版界を騒がせたフードマガジンの誕生、そして消滅。『Eat Magazine』がなければ、今のEat Creativeもありません。

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『Eat Magazine』は、ひとつの理想から生まれました。誰もが興味をもつ「食べもの」をテーマにしたマガジンをつくってみたい。ただし、レストランやレシピを取り上げるのではなく、食べものにまつわるどんな話題でも掘り下げるスタンスで。例えば、科学、社会、政治、宗教と食との関わり。人はどうして太るのか?遺伝子組み換え作物は本当に有害なのか?アフリカで飢餓がなくならないのはなぜか?そんな疑問が無限にある一方で、これまでのフードマガジンでは、触れられることはありませんでした。

読んでもらうためには、とにかく面白い内容であること。世にあふれる雑誌のなかから、手にとってもらえる個性と品質が必要です。ときに不謹慎になることも恐れず、読者を楽しませる姿勢を貫くことが大事。これは英国流のアプローチと言っていいのかもしれません。

『Eat Magazine』は毎号、テーマごとに編集されていました。ジェンダー、冒険、豚、祭りなど。ひとつの疑問から別の疑問が湧き、知的好奇心を広げてくれるようなトピックを選びました。また、飲食業界にとどまらず、幅広い分野のライターに記事を担当してもらい、さまざまな視点から「食」を探訪できるよう心がけました。

デザインについても、既存の枠を超えようと知恵を絞りました。失敗もありましたが、チャレンジはそれなりに成功しました。後発にアイデアを真似されたのも、ちょっとした誇りです。

そして最大のチャレンジが、バイリンガルのマガジンであること。同じ記事であるにも関わらず、日本語と英語では読者の文化背景が異なります。イギリス人が「Sushi」にまつわる記事を書いても、日本人が面白く読める内容になるとは限りません。そこで、同じテーマの記事でも、読者ターゲットに合わせてアプローチを変えました。同じ記事でありながら、言語ごとに異なる内容を掲載するバイリンガルマガジンは、『Eat Magazine』以外に見たことがありません。

コンテンツは、すべて書き下ろしと撮り下ろし。毎号100ページ以上のボリュームで、再生紙とソイインクにこだわりました。雑誌のウェブサイトを開設したのも、2000年当時は新しい試みでした。雑誌の発売と同時に、毎号趣向を変えた盛大なパーティーも開催していました。

国際的なアワードを受賞したものの、利益の追求は後回し。無謀な事業計画、非効率な販売網、クリエイティブ優先のコスト管理など、あらゆる問題を抱えたマガジンは16号で打ち止めに。「お通夜」と題したパーティーには、これまで雑誌に関わった多くの人びとが「参列」しました。

野心だけを頼りにチャレンジをつづけた『Eat Magazine』。それでもこのマガジンをつくっていなければ、今のEat Creativeもありません。輝かしく、そしてほろにがい経験を糧にして、わたしたちは少しだけ賢明になりました。